次の目的地へ向かうため、俺は車掌といくつかやり取りをして電車へと乗り込んだ。
 家に滞在している間にヨーロッパ各国の言葉はある程度勉強してきたが、方言が混じると流石に時折理解に苦しんだ。
 今回の車掌とのやり取りも所々不安があったが、まあ何とかなるだろう。
 席に着くと荷物を棚に載せ窓の景色へと目を向けた。
 電車はあっという間に市街地を抜け、草原と大きな森が視界に入ってきた。
 東京の電車からみられる物とはまるで違う風景だ。
 空を見上げてみると、鷲が一匹悠々と翼を広げ大きな弧を描いている。

「……。」

 故郷に帰ってから俺は一ヶ月程、実家に滞在した。
 その間、時々母親のかわりに手料理を作ったりもした。
 家を飛び出す前はまったく料理なんてした事がなかった俺がちゃんと食える物を作れるなんて家族も思わなかったらしい。
 俺が料理を作るたびに母親は本当に喜んでくれて、俺もそれを純粋に嬉しいと思った。
 私の作る料理と同じ味がする、味を覚えてくれていて嬉しいと言っては涙ぐんだりしていた。
 こんな事で喜んでもらえるのなら、以前からしておけばよかった。
 そしてそんな簡単な事にすら以前の俺は気がつけなかったんだと実感した。

 夜には父親と酒を飲みながら日本での出来事や親方の事を話したりした。
 普段は無口な父親も酒が入ると多少は口数も増え、俺がいなかった間の事なんかも話してくれた。

「お前は本当に笑わない奴だったのに…いい笑顔を見せるようになったな。」

 ある夜、父親は俺に対してそう漏らした。
 その時の父親の顔は俺が今まで見た事もないくらい優しく温かい笑みを浮かべていて、正直驚いた。
 いや、以前からこんな風に笑う事もあったのだろう。
 今になってようやくそれに気がつくなんて、本当に俺はバカだ。
 ヒューと出会わなかったら、一生気がつかないままだったかもしれない。
 胸にかけられた十字架に俺はただ感謝した。


 …そして今、俺は再び家を出てヨーロッパ各地を歩き回っている。
 以前は全てから逃げる為に家を飛び出した。
 でも今度は何かを見つける為に旅をしようと決めて家を出た。

「偶には帰って来い。ここはいつだってお前の家だ。」

 しばらく旅をしたいと告げた俺に向かって父親はそう言って背中を押してくれた。
 そして今度は家族全員に見送られ、俺は故郷を後にした。

「…。」

 窓の外の景色を見つめながら、俺は日本での出来事を思い出していた。
 ヒューと出会ったあの時。
 あの時から、俺の全ては変わったんだ…見る物も、感じる物も、何もかもが全て。
 ただ与えられた時間を、ただ生きているだけ。
 そんな灰色だった世界が一変した瞬間だった。

 ヒューが俺の全てに輝きを、生きる目的を与えてくれた。
 油にまみれて整備する楽しさも、何かを求める事の勇気も、大切なモノを守ろうとする願いも。
 そして、涙を流す事も。
 ヒューに出会えたからこそ、見つける事ができた。
 だから俺達は…。
 どんなに遠く離れていても、もう二度と出会う事が出来なくても、お互いを支えあって一緒に生きていける。
 たとえ一人きりでも、俺はもう、一人じゃないんだ。

「ありがとう。」

 俺はもう一人の自分に向けて小さく感謝の言葉を投げかけた。
 そして一つ息を吐き、窓から視線を逸らして椅子に深く座りなおした。
 …この長い旅が終わったら、次はどこに行こうか。

「……。」

 そうだな、もう一度「ただいま」を言いに日本へ帰ろう。
 俺にとって日本は、もう一つの古里だ。
 故郷の家族と同じように、日本にも俺の帰りを待っている人達がいるだろう。


 再び窓の外に目をやると悠然と飛んでいた鷲の姿は既になく、ただ青く澄んだ空が広がっていた。


-END-





****************************** 後記。

遂に終わりましたmissing link。
いいタイトルも思い浮かばず、適当にタイトルをつけて書き出したのが2005年3月の半ばでした。
そして今日、2006年1月15日遂に書きあがりました。
途中オフラインが忙しくて長く中断する事もありましたが一周年前に何とか完成させる事が出来ました(笑)
小話というには少々長くなりすぎました。

発行している同人誌や裏ではいろいろ横道に逸れてしまっていますが(笑)これがウチのサイトの2Pヒューの本筋です。
ヒュー兄さんズの設定の所にある通り、2Pヒューはひとりぼっちです。
でも心の内では1Pヒューをはじめ、いろんな人達に支えられている…一人じゃないんだ。
そんな感じの話を書きたくて、こんな長い話になってしまいました。
ぶっちゃけ最後まで書き上げられる自信はありませんでした。
こんな独りよがりの話でも「楽しみにしています」という言葉を下さった皆様のおかげで最後まで書きあげる事が出来ました。
本当に有難うございました。

挿絵の方は2Pヒューは裏の世界に足を踏み入れているあたりはクマが酷くて随分老けていますが、再会してからは意識して徐々に若返らせました(笑)
途中は本当かなり酷い顔をしていますね…というか絵が変わっていてちょっと恥ずかしいです。
推敲や挿絵の修正は今後もこっそりするかもしれません(笑)

私は2Pにオリジナルの名前をつけられるほど器用ではないので、1Pも2Pもあくまで「ヒュー」として、それぞれ別次元で小話を書いていました。
でも二人並んだ絵も描いてみたいな〜と思い、イラストの所に二人が肩を組んでいるボロボロの写真の絵を描きました。
(写真っぽくしたのは、カッコよくみせたいと思って描いた効果であって、その時にはmissing linkのような設定は脳内にはありませんでした。)

で、もしもこの写真のような状況になるんだったら、どんな感じの話になるんだろう?と思い軽い気持ちで書き始めたのがmissing linkです。
すべてはイラストの項目に飾ってある、あの一枚の絵から始まりました。
(そのイラストのコメントみると、パラレル過ぎるから絵だけにしとくと書いてあるのに結局全部書いてしまいましたね(爆))
書き出した時は正直2Pヒューに対して1Pヒュー程思い入れとかなかったのですが、この作品を通してグっと2Pヒューを好きになる事が出来ました。
まあ、全部私の妄想なわけですが(笑)

missing linkはこれで終わりますが、これからも2Pヒューの話も1Pヒューの話もかけたらな、と思います。
絵描きの未熟な文ゆえ、凄い読みにくかった部分もあったかと思います。
それをここまで読んでくださった皆様に心から感謝いたします。

最後まで読んでくださり、本当に有難うございました!



作業中のお供BGM:スキ/マス/イッチ・奏、バン/プオ/ブチキン・カル/マ

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