恋の天使は悪戯者。
こんな素敵な出会いを遅刻ギリギリの時に運んでこなくてもいいのに!
でも、遅刻ギリギリだったから、良かったのかな?

「このままじゃ遅刻しちゃう!」

 半泣きでアリスは細い路地裏を猛烈な勢いで走り抜けていた。
 この路地裏は少々道は悪いもののかなりの時間短縮に繋がる抜け道だ。

(マジやばい時はついつい使っちゃうんだよね!)

 悪戯っ子のようにペロっと舌をだし猫を飛び越え薄暗い道を抜けると少し大きな通りにそのまま飛び出す。
 眩しさに一瞬眩んだ視界の端に映ったのは、こちらに向かって疾走するバイクだった。

「!!!!」

 轢かれる…!
 悲鳴も出せず足を絡ませスッ転んだアリスの脇ギリギリをバイクはタイヤを鳴らしながら芸術的な弧を描いて停車した。
 バイクの乗り手はかなりの腕の持ち主のようだ。
 もしも運転の下手な乗り手ならばアリスは間違いなく轢かれていただろう。

(…生きてる!?私)

 生きた心地もせず声も出せないまましゃがみ込んでいるアリスの方へバイクの主が慌てた様子で駆け寄った。

「大丈夫!?ケガはなかった?」

 見上げたアリスの視界に入ったのは…


 まるで一度も日に焼かれた事が無いような白く透き通った肌。
 サラサラと風に揺れる髪は深い青…紺碧の青があるとしたらきっとこんな色だろう。
 そして冷たい海の底から見上げた太陽のような燃えるようなアイスブルーの瞳。
 何より初めて出会ったにも関わらず、いつも何処かで逢っているかのようなそんな懐かしさ…!

(これは……運命の恋!?)

 そう。アリスが恋に恋した瞬間だった…。
 が、今のアリスにとってのんきに恋をしている時間など微塵もなかった。

「あー!ち、遅刻しちゃうーー!」

 青年の質問に返答するのも忘れアリスは勢いよく立ち上がると放り出されていたカバンを拾い、スミマセンでしたと青年に頭を下げその場を走り去ろうとする。
 猛然とダッシュを開始しようとしたアリスを青年は慌てて呼び止めた。

「あ!ちょっと待って、君ポップン学園の生徒だよね?」
「は、はい、そうですけど…」

 しどろもどろで答えるアリスに青年は微笑むとバイクからもう一つヘルメットを取り出しアリスへ差し出した。

「俺の所為で遅刻になるのは悪いし、学校まで送るよ。」

 状況を把握できずに不安そうな表情を浮かべていたアリスだったが青年のその言葉に一瞬でパッ!と表情を明るくした。
 遅刻を免れる上、運命の人の背に掴まれるのだ。
 果たしてこんな幸運な事があるだろうか?

「は、はい!是非お願いします!」

***

「…で、その運命の人の名前聞き忘れちゃったんだ?」
「うん。」

 放課後、遅刻を免れたにも関わらずアリスは気落ちした様子で友人のキャロに泣きついていた。
 折角出会えた運命のお相手の名前を聞き忘れたのだ。
 アリス一生の不覚である。

「あの路地裏で待ち伏せしてたらまた会えるかな!?」
「あーのーねえ、待ち伏せなんかしてたらアンタまた遅刻するでしょ!」

 その言葉に涙目になるアリスを尻目にキャロは更に畳み掛ける。

「第一その運命の人、ちゃんとアンタにヘルメット被せてくれたの?」
「勿論だよ!」

 それを聞いたキャロの口元に意地悪な笑みが浮かんだ。
 目を細めると薄笑いを浮かべ身を乗り出してアリスに尋ねる。

「ねえ、そのヘルメットどんなカンジのヘルメットだった?」
「えーっと!…水色でね、かわいい花のシールが、ついてて、…それ、で…」

答えていくうちにアリスの声のトーンは地獄の底へと転がり落ちるようにどんどん低くなっていった。

「…彼女のだろうね、それ。」
「あーん!!キャロ、今日はレマソのケーキ食べにいこう!失恋記念でキャロのおごり!」

更に泣きつくアリスにキャロは最後の駄目押しをした。

「あ、ゴメン、今日は兄貴に学校まで送ってもらったから自転車なくてさ。この後は兄貴の職場に寄るから無理。」

 うなだれるアリスの肩を叩き「まあ明日おごってあげるから」と言いながら外を見たキャロの表情が一瞬で豹変した。
 普段はクールなキャロがその端整な顔を歪めツリ目がちな目尻を更につりあげている。

「げ!兄貴がきてる!」
「え?」
「アリス、帰るよ!まったくあのバカ兄貴、悪目立ちする自覚まったくないんだから!」

 廊下を走りながらアリスはキャロに問い掛けた。

「そういえば私キャロのお兄さん見た事が無いね。どんな感じの人なの?」
「なんか、クールなのかどっか抜けてるのか微妙なカンジでさ。気遣いはいつもから回りしてるし。目立つから職場で待ってろってあれ程言ったのにヘンに気を使って学校まできてさ〜」

身内の悪口をツラツラと並べるキャロから校門へと視線を移したアリスの目に映ったのは…。

「…えッ!?」

 大型のバイクに跨りどこか遠くを見ている青年を学校帰りの女学生達が振り返り何度も見つめている。
 そう、女学生達の注目を集めている端整な容姿の持ち主はまさしく今日出会ったアリスの運命の人、その人であった。
 直立不動で思考回路を停止させたアリスには気づかないままキャロはわざわざ校門まで迎えにきてくれた身内に罵声を飛ばした。

「もう!工場で待っててくれればイイって言ったでしょ!」
「いや、ちょっと早く仕事が終わったからさ、迎えに来た方がいいかなと思って…。」

 少し申し訳無さそうに頭を掻く青年がアリスを見つけ、フと表情を変える。

「あれ?君は…」
「あ!はい!け、今朝はありがとうございました!」

青年の声でグルグルと廻る思考から現実に引き戻されたアリスは地面に頭をぶつけるんじゃないかとキャロが心配に思うくらいの勢いでお辞儀をした。

「…え?もしかして、アリスの言ってたのってウチの兄貴の事?」
「そ、そうみたい…。」
「げ、マジで?」

 コソコソと小声で会話をする二人に青年が声を掛けた。

「…ああ、もしかして君がアリスちゃん、なのかな?」
「は!はい!そうです!妹さんには、いつもお世話になっています!」

 その言葉に青年は僅かに苦渋を含んだ表情でちらりとキャロの方を見やった。

「いや、こちらこそ…ウチの妹の事だからむしろ世話かけてるんじゃないかな?」
「兄ちゃん!」

 間髪入れずキャロの怒声が入る。

「あ、ああ、ゴメン。俺はヒュー、よろしく。」

 ヒューの差し出した手を両手で握るとアリスは紅潮した表情でこちらこそよろしくおねがいしますと微妙に片言で改めて挨拶をした。



「じゃ、私は兄ちゃんのバイクに乗っていくから、また明日ねアリス。」

 水色のかわいい花のシールがついたヘルメットを被りながらキャロは更に付け加えた。

「あ、このヘルメット私のだからさ!他にカワイイヘルメットは今のところないみたいだよ?」

 そう言いながらアリスに向かって悪戯っぽくウインクするとヒューの肩を叩きバイクの後部座席に跨る。

「ほ、本当!?」「ん?何の話だ?」

 アリスとヒューがキャロに同時に言葉を投げ掛ける。

「あー兄ちゃんは気にしないで、こっちの話!じゃ、またねアリス!」
「うん!またね!明日!」

 ゆっくりと走り出すバイクを見送りながらアリスは満面の笑みで叫んだ。

「明日、レマソのケーキおごるからー!!」


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上のアリス視点の兄さん描写は笑う所です!(笑)
本当は新品に換えたばかりのタイヤが磨り減って
職場でヘコむ兄さんの描写も入れたかったんですが無理でした(爆)

04/09/27

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