心が冷たく研ぎ澄まされていく瞬間。
そのとき、何もかもを忘れて風と一つになれる。

そんな感覚をもっと俺は知りたい。

「ツーストは、野宿した事ある?」

 突然のアイルランド人の質問に一瞬目を丸くしたがなんとなく質問の意図を理解したツーストは笑って答えた。

「ああ。」
「じゃあさ、やっぱりバイクで一人旅、した事あるんだ?」

 珍しく目を輝かせながら身を乗り出してヒューは尋ねた。

「勿論。」
「そっかあ…。バイク乗りなら、一度はしてみたいよなあ、バイクで一人旅。」

 いつか北海道まで一人旅してみたいんだ、と言うヒューに「広大な大地が広がるアイルランドに居た割には随分と規模が小さいんだな」とツーストは笑った。

「砂漠での旅はなかなか過酷だったが、いい旅だったぞ。」
「砂漠か、いきなり規模がでっかくなったな。なあ、もっとバイクでの旅の話聞かせてくれよ。」
「長くなるぞ。」

 その言葉にヒューは真顔でツーストのバイクに向けて親指を立てる。

「大丈夫、ツーストのバイクの整備にかかる時間も、かなり長くなりそうだから。」
「…お前、わざと遅く整備してるんじゃないだろうな。」
「まさか!…でも、わざと遅く整備したくなるくらい、いろんな話が聞いてみたい。」

 いつも何処か冷めた印象を受けるヒューだが彼が興味のある話の最中に時折見せる笑顔は無垢な子供のように幼い。

 そんな彼から向けられる眩しいくらいの笑みにツーストは苦笑を返した。

「仕方ないな…じゃあ、そうだな、どこから話そうか。」

 仕方ないとは言いつつもまんざらでもない様子でツーストは語り始めた。
 実際の所、こんなバイクの旅の話など聞いてくれと頼んでも聞いてくれる人間の方が少ないのだ。

 そしてヒューはこの日、これまでで最も時間の掛かる整備をする事になるのだった。

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リクでツースト&ヒューです。久々に小話っぽいカンジになりました(笑)
二人は気の合う友人のようなカンジでしょうか。
気苦労かかえた苦労人同士ってカンジもしますしね(殴)
しかし私には無垢な笑みなんて描けませんでしたよ…
(企んでる笑みを描くのは得意なんですけどねえ)

04/10/16


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