人と同じ様に物にも永遠は存在しない。
でもその「命」を少しでも延ばす事ができたのならば
この虚ろな心が少しは満たされるような…そんな気がしていた。

「どうしたの?何か探し物でも?」

 探し物に夢中になっていたポエットはその声に飛び上がった。
 見上げるとすぐ側の整備場で働いている青年がこちらを心配そうに見つめている。

「懐中時計を落としてしまって…。」

 お使いの途中突風にバランスを崩し胸元に仕舞ってあった時計をうっかり落としてしまったのだ。
 慌てて追いかけたものの見失ってしまい整備場周りをずっと半泣きで探していた所だった。
 あたりは徐々に夕闇に沈み始めており、これ以上暗くなれば今日中に見つけるのは絶望的だろう。

「その時計…とても大切な人に貰った、とてもとても大切な物なんです。」

 そう言って涙をぬぐうとポエットは青年を見上げる。

「そっか…じゃあ俺も一緒に探そう。その方が早く見つかるしね。」
「え?でも、お仕事の方は…。」
「ああ、大丈夫、親方も君が半泣きでウロウロしているのを見て心配してそうだったから。」

 ヒューは安心させるようにポエットに微笑みかけた。
 それに多分すぐに見つかると思うよ、と付け足すとヒューは整備場の倉庫に向かって呼びかけた。

「おーい!そこにいるんだろ?一緒に探してくれよ!」

 …返事はない。

「5分以内に見つけたら、帰りにスーパーでみかん買ってやるからさ!」

 その瞬間、みかんみかんー!と喜びの声をあげながら二匹の何かが飛び出し物凄い勢いでポエットの横を走り抜けていった。

「あ、あの…?」
「ああ、あいつ等、悪戯好きで本当困った奴等なんだけど物を探す事に関しては天才的なんだ。」

 そう言っているうちに、再びみかんみかん〜という声と共にトビーズが探し物を持ってきた。
 どうやら深く生い茂った草むらの中に落ちていたらしい…ヒューの言う通り彼らはモノ探しに関しては天才のようだ。

「あ、ありがとうございます…!」

 喜び一杯で懐中時計を受け取ったポエットだったが懐中時計の蓋を開くとその表情は一気に曇っていった。
 草むらに落ちたお陰か原型は留めているものの、それは既に時計としての機能は停止していた。
 そんなポエットの様子にヒューは懐中時計を覗くと小さく唸り声を上げた。

「ごめん…ちょっと貸してもらえるかな?」

 ヒューはポエットから懐中時計を受け取ると小難しそうな顔でそれを弄ったり眺めたりした。
 そして暫くしてふと顔を上げると再びポエットを安心させるような優しい笑みを浮かべる。

「うん…これなら直せると思うよ。ちょっと時間はかかるかもしれないけど。」

 俯いていたポエットはその言葉に飛び上がるようにヒューを見上げた。

「な、直せるんですか?」
「お得意様によく壊れた時計を持ってくる人がいてね、懐中時計も持ってくるから修理には慣れている。」

 だから、安心していいよ、そう微笑むヒューを見てポエットは再び涙ぐんだ。




「俺、こうゆう細かい物を修理してる時って怖いって言われるからさ…悪いけど暫く事務所で休んでいてもらえるかな。」

 そう言われたのは1時間前。出された紅茶は既に冷め猫舌のポエットでも物足りないものになっていた。

「…うーん、どうなってるんだろ…心配だなぁ。」

 それから更に数刻、暫く悩んでいたポエットは遂に痺れを切らしこっそりとドアを開け修理の様子を伺った。
 刹那、凍りつくような空気の流れにポエットは体を硬直させた。

 懐中時計を見つめるヒューの瞳には先刻までの優しさは無かった。
 冷たい瞳は、ただ目の前の機械だけを見つめ、精確にソレを組み立ててゆく。
 今、声をかけても彼の耳には何も届かないだろう。
 身を刺すような集中力にポエットの方が緊張を覚え息苦しくなる程だった。
 だがその姿にポエットは僅かな恐れを感じながらも釘付けになっていた。
 大きな手が小さな部品を組み立ててゆく。
 …それはまるで、魔法使いの手のようだった。



 シャッターを開けると冷気を帯びた尖った夜風が頬を刺した。

「本当に、ありがとうございました…!」
「うん、また何かあったらおいで。」

 優しく微笑むヒューにもう一度ポエットはお辞儀をすると胸元にしまった時計をケープの上から抱きしめ空へと飛び立った。


「さて、もう少し仕事してから帰るか…今日も残業だなあ。」

 残業、という言葉に倉庫から二つの影がぴょこっと飛び出した。
 みかんはー?…という言葉と共に。

「あ。」

 …スーパーの閉店時間は、21時。
 時計は無情にも丁度21時を知らせる音を整備場に重く響かせていた。

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というわけで、ポエット&ヒューです。
この後兄さんはトビーズの悪戯に酷い目に遭わされるのでしょう〜。
時計を誰があげたのか、とか時計をよく持ってくるお得意様等は誰なのか等は脳内補完してください(殴)

あ、挿絵はスカートを覗いている兄さんではありませんよ(笑)

04/10/22


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