ハロウィン、死者達が此方の世界に戻ってくる日。
俺は、何時も傍にある想いを何時もより強く感じられる…そんな日だと思ってる。

「ハロウィンですね。」

 そう言ってあの意味不明な少年はまた顕れた。

「ああ。」

 夕暮れの川沿いの斜面に腰を下ろして休憩していたヒューにカジカはあの相変わらずな笑顔で気さくに話し掛けてきた。

「ハロウィンがどんな日か知っていますか?」
「お前、俺をバカにしてるのか?子供がコスプレして菓子をくれって強請る日だろ。」

 不機嫌そうに答えるヒューに対してカジカは笑顔のまま首をかしげた。

「いえ、そちらではなくて。」

 否定する言葉にヒューは黙り込むと落ちかけていた日が完全に沈みきったのを見送ってから呟くように答えた。

「…ここの国でいう「お盆」みたいなモンだろ。」
「ええ、この日は、廻る輪が何時もより此方に近づく日なんです。」

 カジカの小難しい表現にヒューは眉を顰めた。

「霊達が帰って来るっていう意味か?」
「少し違いますがそうゆう意味合いに取ってもらって構いません。」
「へぇ…まあ、帰って来るって言われたって、俺には見える訳じゃないし。」

 興味なさげに相槌を打った後少し不貞腐れた様子で言うヒューにカジカはにっこり笑ったまま天を指差した。

「空、見てみて下さい。僕が傍にいるから…今なら貴方にも見えるでしょう?」

 今日は満月に近い為本来ならば眩しい月明かりに星の瞬きは薄れ少し白けた夜空が広がっている筈だ。
 しかし見上げればそこには空一面を覆い尽くす光の煌き…七色に輝く蝶の群があった。
 光の濁流は刻一刻と形を変え、渦を描き、街の方へと流れてゆく。
「…凄いな。」

 ヒューの口から出た言葉はあまりにありきたりな物だったが、その表情を見ればかなりの衝動を受けているのが分かる。

「あれは廻る想い。好意、悪意、いろんな想いが入り混じって流れています。そんな沢山の想い達が、少しだけ傍に還って来ているんです。」
「なあ、あの中に…俺の大切だった人達も、居るのかな。」
「呼び寄せてみましょうか?」
「…出来るのか!?」

 珍しく動揺を隠す事なく振り返ったヒューにカジカは自分の内へ想いを取り込む事で人格も呼び起こす事が可能だと伝えた。
 数刻、真剣に悩んでいたヒューはもう一度夜空を見つめた。
 そこには変わらず沢山の光達が想いを宿し流れ続けている…暫くその光を見つめた後ヒューは少し微笑んでカジカを見やった。

「いや、やめておくよ、もし逢えたとしても…きっと今の俺じゃ叱られる。」
「…いいんですか?」
「ああ、それに、それにだ…、あのさ、昔の映画でもあったけど…。」

 一呼吸置くとヒューはカジカに真剣な眼差しを向け、疑問を投げ掛けた。

「もしもだぞ、再会の抱擁とか、その…キスとかするとなるとだな、それってお前とする事になるんだよな…?」
「そうですね。」
「…。」

 折角の提案を再度丁重に断るヒューに対してカジカはもう一度尋ねた。

「本当にいいんですか?明日お願いされても出来ないですよ。」
「い、いいって言ってるだろ。それに今逢えなくても…またいつか逢えるんだ。」

 そう言ってもう一度光を見上げると、ヒューは軽く手を振った。


―何時か自分が同じ様に廻る、その時まで… また。


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ハロウィンにあわせて書いてみました。
というわけでカジカ&ヒューその2です。

完全にイタコなカジカでなんだか…スミマセン!(爆)
いや、洞窟にいたら神通力とか(以下略)

あと、文中の「想い」は「魂」と似たような意味にとっていただければ
意味不明な文の内容が少しわかり易くなるかもです。

ちなみにカジカがヒューの質問に「そうですね。」としれっと言っていますが
小話の中のカジカはちょっと感情欠乏してるので
別にキスとかする事を何とも思ってないだけです(笑)


04/10/31


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