―同業者だからといってソレは俺にとっちゃ恐れる理由にはならねえ。
用心しなきゃならねえのは俺と同じ「目」を持つ人間だ。

「殺し屋同士で殺し合いなんて、間抜けな話だな…そう思わねえか?」

 そう言うKKの口元には不敵な笑みが張り付いていた。
 手負いの獲物を甚振る猫のように自分に放たれた刺客を逆にじわりじわりと追いつめてゆく。

「ひ、ひぃ!」
「おい、そろそろ逃げ回るのは止めたらどうだ。」

 撃鉄を起こし照準を刺客へと定めながら言うKKの目には冷たい光が宿っていた。
 …それは殺す事に対して何の躊躇も持たない者だけが持つ事を許される光。
 そんなKKの殺気に押され後ずさりする刺客が背後に置かれていたゴミ箱を派手な音をさせてひっくり返した。

「ったく、お前まがりなりにも掃除人なら物音には気をつけろよ。一般人が聞きつけたらマズいだろ?」

 だが恐怖に平常心を失った刺客は転がったゴミ箱に更につまずき、静かな夜の街に再度ガランガランと間の抜けた音を響き渡らせた。

「仕方ねえヤツだな。まぁ、これで終わりだ…。」

 壁際へと追い詰めた刺客へ正確に狙いを定め引き金を引く…だがそれをKKは成す事が出来なかった。
 先刻の物音を不審に思ったのだろうか、様子を見に来た青年が自分と刺客の間に丁度割って入る形で出てきたからだ。
 …青年には見覚えがあった。
 ちょくちょく機械の整備を任せている、この近くにある整備場に勤めている青年だ。

「え…KKさん!?」

 銃を構えるお得意様と、同じ様に銃を構える如何にも不審そうな男を交互に見つめながらヒューは僅かに後ずさりした。

「お前…!バカ、隠れろ!」

 照準は刺客へ定めたままKKが怒鳴る。
 それに重なる射撃音。
 ヒューが刺客の放った弾丸に撃たれ吹き飛んだのとKKが刺客の眉間を撃ち抜いたのはほぼ同時だった。

「…ちっ」

 KKは小さな舌打ちと共に動かない青年の元へ駆け寄った。

「オイ、しっかりしろ!」

 ぐったりとしているヒューの体を抱き起こし被弾した場所を探すが、出血しているのは壁に頭を打ち付けた際に出来た傷だけで身体に被弾した様子は無い。
 どうやら気を失っているのは弾丸に撃ち抜かれた為ではなく、頭を強く打った所為のようだった。

「…どうゆう事だ?」

確かにコイツは撃たれた筈だ。
不審に思いヒューをもう一度道路に寝かすと既に生命活動を停止させた刺客の方へと歩み寄る。
自分が撃った弾丸は一発のはず…だが、刺客の肢体には二箇所の風穴が出来ていた。
一つは自分が眉間へ放った一発、もう一つは右脇腹に一発。

「…っ。」

 背後からした呻き声にKKは振り返った。
 視線の先では目を覚ましたヒューがまだ痛む頭部に片手をあて半身を起こしていた。
 逆の手には、工具として意味をなさない程形を歪めたレンチを握っている。

(コイツは…)

 俄かには信じられないが咄嗟に手にもっていた工具で弾丸を相手に撃ち返したという事か…。
 偶然かもしれない…だが、ただの一般人がそんな事を軽く成せる筈が無いのも事実だ。
 たとえ撃ち返す事が出来たとしても普通なら手首を負傷しているだろう。

「派手に吹飛んだのは衝撃を吸収する為か…撃ち返すのは初めてじゃねえな。」
「え?な、何がですか?」

しらばっくれるヒューにKKは無言で歩み寄ると胸倉を掴み顔を引き寄せた。

「…お前の事は詮索しねぇ。だからお前も俺の事は詮索するな。」
「は、はあ…。」

 状況が飲み込めず目を丸くしているヒューにキッパリと言い放つと、そのまま胸倉を掴みあげ立ち上がらせた。

「…あの、あの人そのまま放置していっていいんですか?」
「アレはサツが見つける前にアチラさんが処分するさ。」
「アチラさん?」
「詮索するなっつったろ?これ以上巻き込まれたくなかったら首を突っ込むな。」
「す、スミマセン…。」

 申し訳なさそうに頭を下げるヒューにもう一つ言い放つ。

「今日の事は誰にも言うな。これはお前の為だ…いいな?」
「は、はい。」
「もし破ったら。」
「破ったら…?」
「別の整備場に行く。」
「そ、それだけは勘弁してください!お得意様が俺の所為で来なくなったなんてバレたら親方に叱られます…!」

 本当に慌てた様子で言うヒューの頭をKKは軽く小突いた。

「冗談だ。お前の整備の腕は信頼している。また頼むぜ。」
「…は、はい!有難うございます。」

 そう言ってヒューが向ける笑顔は、とても今しがた人の命を奪った人間に対して向けられるような物ではなかった。
 普通の神経の持ち主ならばその場から慌てふためいて逃げ出すか、終始脅えた表情で震えているだろう。

「しかし変な奴だな、お前。俺が怖くないのか?」
「…お得意様を無下には扱えませんよ。」
「ん、ああ、そうだったな…。」

 詮索をしないと言ったのは俺の方だったな。そう付け加えるとKKはヒューを残してさっさと歩き出した。

「あ、あ、待ってください!俺をこんな所に置いてけぼりにしないで下さいよ!」

 ボーっとしていては死体と自分、二人っきりになるという事実に気が付いたヒューは青ざめて慌ててKKを追いかけた。




 すれ違いざま、ヒューは一瞬だけちらっと刺客を見やった。
 自分の工具を台無しにしてくれた刺客を一瞥するヒューのその瞳には冷たい光が宿っていた。


**************
というわけでKK&ヒューです。
私にも詮索はしないでくださッ(殴)

出来るだけカッコいいKKを心がけてみましたがどうでしょうか!?
逆にヒューは何かとてもダサくて情けないカンジがしますが、偶にはこんな彼もいいのでは(爆)


04/11/02


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