「甘くて香ばしいイイ匂い!たまらないね〜」
「ああ、本当にもう、胃から胸にかけて気持ち悪さがどんより溜まるような匂いだ。」
「甘い物がダメな人って不幸な人だよね〜」
「…。」

「ねえねえ!なんでいつも地下鉄までわざわざ遠回りして行くの?」
「お前なぁ、ソレ分かって言ってるだろ…。」

 地下鉄へ通じる地下モールの一角はヒューにとって魔の一角≠セ。
 特に地下街に入って直にあるクレープ屋から漂う強烈な甘い匂いには頭痛さえ覚える。
 それに加え近くにはハンバーガーショップ、焼きたてパン屋、ケーキの店、クッキーの店、和菓子の店等々…ズラリ建ち並んでいるのだ。
 地下というだけあって匂いの出口は殆どなく、それぞれの店から出た匂いが入り混じり生まれた強烈な悪臭はその一角を通過するだけでヒューの鼻を機能不全に陥らせた。
 鼻の効く整備士は有能だとか言われるがこうゆう時は不便以外の何物でもない。
 お陰でヒューは地下鉄を利用する際この一角をわざわざ避けて遠回りする事を余儀無くされていたのだ。

 そして恐ろしい事に今隣にいるキャロはこの匂いを「うーんイイ匂い!」と言うのだ。
― はっきり言って信じられない。
 更に妹は信じられないような恐ろしい事をしれっと言い放った。

「兄ちゃん、私クレープ食べたい。一緒に行こうよ!」
「お、お、お前、俺を虐めて楽しいのか?」
「クレープ屋って甘い物だけじゃないよ、ハムとかサラダもあるんだからさ。」
「そんなの分かってる!俺はあの匂いがダメなんだよ…。」

 眉間に地下鉄の切符を挟めそうなほど深い皺を寄せながらもそれでもちゃんと魔の一角へと足を進めるヒューの兄妹愛はそれなりに大きなもののようだ。

クレープが焼きあがるまで殆ど息を止めていたヒューの顔は赤を通り越して青くなっていたという。
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上の文は半分以上が実話です。名古屋の地下街を歩きなれている人なら
ドコの場所がすぐ分かるかと思うんですが、東山のトコです。
あの場所は、本当どうにかならないものなのかといつも思っています。
でも皆イイ匂いっていうんだよなあ〜信じられない(爆)
(姉はクレープオンリーならいい匂いだと言っていました(笑))

04/11/20


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