「最初にいっとくが、俺はまだオッサンって年齢じゃねぇぞ。」
「俺から見れば十分オッサンだよ。」

「んな事言ってるとお前もあっという間にオッサンだぞ。」
「その頃にはアンタはもっとオッサンだよ。」
「(可愛げないガキ…。)」

「おい!Kのオッサン!」

 いきなりの低音の罵声にKKは最初自分に声を掛けた単車乗りの男へと訝しげな目を向けた。
 が、フルフェイスのメットの下から現われた見覚えのある銀の髪と朱の瞳にその表情を不敵な笑みへと変化させた。

「よぉ、ヒューじゃないか。珍しいな〜お前から声掛けてくれるなんて。」
「ああ…そりゃ嫌でも掛けるさ。」

 ヒューと呼ばれた青年の眉間には深いシワが刻まれていた。
 どうみても親しい者を偶然見かけたから声を掛けた、という訳ではなさそうだ。

「こうやって偶然出会ったのもきっと運命ってヤツだ…というわけで、今すぐ!この前のプリンタ修理代、その他いわくつきのモノ諸々の整備代きっちり払ってもらうからな!」
「あー、…ヒュー知ってるか?金持ちってのは現金を持たねぇんだ。カードしかもってないから今は払えな」
「それは前も聞いた!」

 目尻をきつく吊り上げて今にも掴みかかりそうな勢いで…実際はバイクに跨ったままなので掴み掛かれないのだが、ヒューは即座にツッコミを入れた。

「何と言おうと今日という今日は払ってもらうからな!アンタの家に押しかけてでも払ってもらう!」
「お、俺んちまで来るってのか?そりゃ丁度いい。今からウチに帰る所だからよ、どうせならソレに乗せてくれよ。」
「…は?」

 突然の申し出に目を丸くしたヒューの元へKKはずかずか歩み寄るとその肩に手を置き耳元へと顔をそっと近づける。
 傍から見れば親しげに話しているように見えたかもしれないが、実際の所は男同士のちょっと危険な内緒話だ。

「…厄介な連中に追けられてる。お前さんのご自慢の足で撒いちゃくれないか?」

 その言葉にヒューは目を細め視線だけをKKの背後へと向けた。

「あのいかにも怪しい黒い外車か?」
「ああ、いかにも怪しいけど危険なヤツ等じゃねえんだよ。俺ってばモテモテだからよ、ん〜軽いストーカーみたいなモン?」
「ふぅん…。」

 外車の連中がどんな危険な連中なのか…それはヒューにとってどうでもいい事だった。
 これは目の前の憎き滞納者に更にフっ掛ける絶好のチャンスだ。

「…。10万。」
「おい!そりゃぼったくり過ぎねえか?!」
「金持ちがケチケチいうなよ…こっちは危険を冒すんだ。さあ乗るのか、乗らないのか?」

 KKはOKの返事の代わりにヒューから差し出されたヘルメットをしぶしぶ受け取った。

「なんだよ随分と可愛いメットじゃねえか。彼女のか?…てか、これ被んねえといけねえのか?」
「当たり前だ。ノーヘルのオッサン乗せた所為で減点されるのはご免だからな。」

 あとそれは妹のだ、と付け加えると再び自分もフルフェイスのヘルメットを被る。
 KKが後部座席へひょいと飛び乗り自分の腰とグラブバーにしっかり掴まったのを確認するとヒューはゆっくりとバイクを走り出させた。

…随分と安全運転だ。
 KKは内心感心していた。
 ヒューくらいの若い盛りならばこうゆう状況に置かれたら一気に飛ばしそうなものだが…どうやらそれなりに状況の読める人間らしい。
 いきなりスピードを出せば、はい逃げ出しました、と相手に言っているようなものだ。


 安全運転で数キロ走った時点でヒューは後部座席へと声を掛けた。

「あのカド曲がったら仕掛ける、落とされないようにしっかり捕まってろよ。」
「おお。」

 太い道からゆっくり左折し進入した道路は比較的道幅の広い一方通行の道だった。
 一歩間違えば逆に追い詰められそうな道だが、対向車や目立った障害物もない分急加速すれば一気に追っ手を引き離す事も出来るチャンスだ。
 が、ヒューは単車のスピードを上げるかと思いきや逆にスピードを落とし始めた。

「ん?おい、」

 不審に思いKKが声を掛けた丁度その瞬間ヒューはいきなりクラッチを握り込みリアブレーキをロックした。
 後輪がスライドし始めた時点でこの無謀な単車乗りが今何をしようとしているのか察したKKはバイクの車体が急激に傾き始めた所で片足を地面に軽くつけた。
 それを合図にヒューはクラッチを繋ぐとKKと自分の足を軸に器用にバイクを廻し傾けた車体を戻しながら軸足を蹴りそのまま一気に加速する。
 ようは走りながら180度方向転換をしたのだが普通2ケツでするような事ではない。
 思わずKKはヒューに対して罵声を浴びせた。


「このアホ!俺をバイクから振り落とす気か!」
「いや上手くいってよかった。ちょっと自信なかったんだ。KKが鈍臭い奴だったら失敗してたよ。」
「ん、そうか俺のお陰で成功したってわけか。」
「まあな。」

 その後に続いた「まあ失敗しても落ちるのはどうせKのオッサンだけだったろうけどな。」というヒューの独り言を聞き逃さなかったKKは今掴まっているこの細い腰を思い切りくすぐってやろうか…と一瞬本気で考えたが辛うじて思いとどまった。
 万が一ヒューがハンドルを離して笑い出したら二人そろって病院行きだ。

 そして一方通行を僅かに逆走した所で丁度この道路に侵入してきた外車の横ぎりぎりをバイクはあざ笑うかのようにすり抜け再び太い道へと抜け出た。

 大道路に戻るとヒューの走りは先刻までの安全運転とは打って変わり大暴走へと一気に変貌した。
 強引な割り込み、捕まれば間違いなく赤キップのスピード違反。
 僅かな轍に後輪が揺れ時折車体がふらふらとよれる。
 …もうあの怪しい外車が追い付ける事は万が一にも有得ないだろう。
 それでもヒューがアクセルを戻す気配はない。
 吹き付ける強風とエンジンの爆音に自然と呼びかける声も大きくなる。

「おい!スピード出過ぎだろ!減速しねえと捕まるんじゃねえのか!?」
「オービスの位置は把握してるしハンデ乗せてたってサツに捕まるようなトロい運転はしない!」

 だったら別にノーヘルでもよかったじゃないか…と可愛いヘルメットを被ったKKは心底思った。
 やっぱり腰をくすぐってやろうかとKKが再び思い悩みはじめた丁度その時、ヒューは何かを思い出したのかKKに突然声を掛けた。

「ああ、そうだ!」
「?」
「今回の走りで消耗したクラッチやタイヤ代諸々もキッチリ請求するからな!」
「…。」

 KKは爆音と暴風の所為でヒューの声が聞こえないフリをした。




 ヒューはKKの自宅があるというビル街の近くで漸くバイクのスピードを落とし始めた。

 マンションの前につくとバイクを止めフルフェイスのメットを取る。
 乱れた銀髪を頭を振る動作で軽く整えると流れる汗が僅かに飛び散りアスファルトに小さく沁みを作る。
 一つ溜息をつくと前髪を掻き上げ、既に可愛いヘルメットを取って地面へと降り立ったKKを朱の双眸で睨みつけた。

「さあキッチリ払ってもらおうか。」
「ああ、ちょっと待っててくれ。今部屋から取ってくるからよ。」

 そう言い残し飄々と歩き出したKKの後姿を3秒、見送ってからヒューは思わず声にならない声を上げた。

 KKが向かっている自宅があるというマンションビルは…認めたくはないがヒューには一生縁が無さそうな…金持ちが住むような高級マンションだ。
 その事に気がつきバイクを急いで停めてKKの後を猛スピードで追ったヒューだったが、一歩及ばなかった。
 寸での所で無情にも閉まったオートロックのガラスドアにヒューは無様にへばりついた。

「Shit!…騙したなッ!」

 ガラスの向こうでこちらを指さして腹を抱えて笑うKKにどうしようもない怒りが込み上げてくる。
 ロックを解除する自信はある。
 だがこんな状況で解除などすれば警察に捕まるのは目の前にいる料金滞納しまくりの暗殺者ではなく、お金を支払ってもらえない哀れな整備士の自分の方だ。

「…ああクソ!もうアンタの頼みだけは絶っ対に引き受けないからな!」

 高級マンションの立ち並ぶビル街にヒューの遠吠えだけが響いた。

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というわけで、KK&2Pヒューの続きでした!
一度バイク絡みの話をかいてみたかったのですが、1P兄さんで考えている話は壮大すぎたので2P兄さんで。
1Pに比べてワイルドな設定なので、ある程度ワイルドさが出るように努力しましたが結局は苦労人で可愛い兄さんになってしまいました(爆)

ちなみにKKは当然意地悪でヒューにお金を支払っていないだけです。
もしもヒューが本当にお金に困ったらむしろ上乗せして支払ってくれるくらいの気前の持ち主です。

バイクの事に関してはウソいっぱいかと思います…雰囲気が出せればいいなー程度なので!所詮ファンタジーですから(笑)

05/02/04


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