「missing link」

あの時から、俺の全ては変わったんだ…見る物も、感じる物も、何もかもが全て。
あの出会いがなければ、俺は…。




「何だ、電話する前にはメール寄越せって言ってただろ。」

 深夜の突然の着信に俺は憮然と返答をした。
 だが直ぐに相手が普通の状態ではない事を察する。
 乱れた音声に混じって聞こえる弾んだ呼吸音が俺に余裕の無さを伝えていた。

 電話の相手は幾度となく取引をした相手、時には共に危ない橋だって渡った仲だ。
 それなりに信頼もしている。
 何時もならちゃんとした手順を踏んで連絡を寄越すのにそれをしなかった…という事はそれなりの事態だという事だ。

「何か急用か?」
「つけられてる…掃除屋だ。」
「…。」

 携帯を持つ手に僅かに力が篭る。
 掃除屋…。
 このあたりで情報を扱っている人間なら知らないヤツはいないだろう。
 命を狙われた者が生き残るのは死んでも無理だとかいう、B級ホラー映画にありがちなキャッチコピーがついた暗殺者。
 ただホラー映画と違って恐ろしいのがそのキャッチコピーがフィクションではなく「事実」だという事だ。
 実際俺は掃除屋に狙われて生き延びたという人間を知らない。

「すまない、明日までにこちらからの連絡が無かったら…。」
「分かった。後の事は俺が処理しとく。」

 立ち上げてあったノートパソコンを手元に寄せながら何時もよりも低めの声で返答をする。
 暫くして、絶望の淵に立たされたような掠れた声が途切れ途切れに耳に届く。

「…頼む、家族には、今までの事、知られないようにしてくれ。」
「任せろ。連絡、待ってるからな…。」


「…ああ。」

 僅かな沈黙の後、俺の耳に届いたのは静かな夜の風のざわめきにさえ埋もれてしまいそうな小さな返答。
 通話終了のボタンを押した後バックライトの落ちた液晶を暫く見つめていた。

― 連絡が来ない事は、分かりきった事だった。


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