帰宅途中の会社員が階段から誤って転落し全身を強く打ち首の骨を折るなどして死亡。

「…。」

 TVから流れるニュースを見ながら冷めたコーヒーを飲む。

 人一人の死、それは決して軽いモノじゃない。
 けど、それはこんな物騒な世の中じゃあまりに在り来たり過ぎて…誰の目にも止まらないような些細な情報。
 あっという間に多種多様な情報の濁流に流されて消えていく。

 今時見ず知らずの人間の死に興味を持つ人間はそうは居ないだろう。
 俺の場合は"旧知の間柄の人間"でも、だ。
 元々自分の事を含めて客観的な目でしか見れなかったクセが沢山の情報を扱うようになってから悪化したようだ。
 共に仕事をした相棒とも呼べる人間の死でさえ自分を大きく揺さぶる事は無かった。
 きっと今の俺は何の感情も表していない…文字通り無表情をしているだろう。

「俺って薄情者なのかな、なあ?」

 整備場に何時の間にか住みついた野良猫を膝の上に抱き上げながら聞いてみる。

「…ニャ?」

 野良猫の何にも分かってない様子で小首をかしげる姿があまりに愛らしくて俺は思わず苦笑をもらした。
 丁度その時、日付が変わった事を告げる時計の音が事務所内に響きTVの内容はニュースから深夜のバラエティ番組へと変わっていった。

「そろそろ仕事に戻るか。」

 何時もと同じように俺は手の内で弄っていたリモコンをTVに向けスイッチを切った。
 バラエティ番組の司会者のくだらない冗談が中断され騒がしかった事務所内に静寂が訪れる。
 それが合図かのように野良猫は立ち上がると俺の膝の上から飛び降りて戸口へと駆け抜けていく。

 何とは無しに野良猫を追った視線の先には見慣れた人物が立っていた。
 招かれざる客…いや、ツケばかり溜めて俺にとっては最早客とも呼べない人間だ。



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