「暫くリビングで休んでいてくれ、俺シャワーしてくるから。」

 風呂から上がってキョロキョロと室内を見渡す俺に向かって飲み物と軽食をテーブルに置きながらヒューが呼びかけた。

「ああ、ありがとう。」

 ドアを閉めて部屋を出て行くヒューを見送ってからテーブルの上の物を見て俺は苦笑した。

「やれやれ、食いモンや飲み物の嗜好まで一緒なのか…。」

 俺は遠慮なく缶ビールを手にとった。

 ソファで暫く休んでから室内をもう一度見渡す。
 …随分と立派な家だ。
 俺は借りアパートにひとりで住んでいるがヒューはこの立派な一戸建てに妹と一緒に住んでいるらしい。
 もっとも親方の知り合いの紹介で安い賃金で住まわせてもらっているという話だから、その点は俺と一緒だが。

 ふと引出しの上に伏せて置かれている写真立てが目に入った。
 隠してあるとついつい見たくなってしまうのは俺の悪いクセかもしれない。
 ヒョイと持ち上げて覗き込むように見てみるとそこにはヒューと一人の女性が写っていた。
 多分女性が無理矢理自分撮りでとったような…そんな写真だ。
 楽しそうに笑う女性の横でちょっと苦笑気味で狭そうにヒューが写っている。

「…彼女かな?」

 正直俺との決定的な差を見せ付けられて安心した。
 何から何まで一緒では流石の俺も気持ち悪い。


 そこへ丁度ヒューがシャワーを終えて戻ってきた。
 はっとした表情のヒューにこの写真はあまり見てはいけないものだったのだと俺は察した。

「ああごめん、勝手に見て。」
「ん、いやいいんだ…そんな伏せてあったら誰だって気になるしな。」

 テーブルに置かれていた缶ビールを開けながらヒューは苦笑した。

「これ彼女の写真…?って伏せて置かれているってコトは、あまり状況芳しくない?」
「ン、ああ…。」

 缶ビールを煽って一呼吸おいてからヒューは俺の質問に答えた。

「事故で死んだんだ。」
「あ…。」

 小さく声をあげた俺の方に向かってヒューは苦笑した。

「目の前に居たのに、守ってあげられなかった…。」

 そう言って今度は俺から視線を逸らすと伏せ目がちに微笑んだ。
 俺の知らない、俺には出来ない、悲痛で自虐的な笑みだ。
 ヒューが俺より"大人"だと感じる理由の一つが分かったような気がした。

「ま、暗い話は止めておこう、な。」

 そう言ってヒューはいつもどおりの笑みをにっこりと浮かべるとリビングに掛けられた時計を見つめた。

「もうちょっとしたら休もうか、日付もそろそろ変わる事だし…。」
「ああ、俺どこで休めばいいかな?流石に妹さんの部屋で休むわけにはいかないだろうし。」

 その言葉にヒューはそれは流石に無理だなと言ってハハ、と笑った。

「夏だったらソファや床にゴロ寝でもいいんだろうけど…冬だし風邪ひくと困るしな。仕方ないから俺のベッドで休もうか。」
「…え、二人一緒にか?」
「ああ大丈夫。セミダブルだからそこまで狭くないよ、っても大の男二人じゃちょっと狭いかもしれないけどソファよりはいいだろ?」



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