今日の宅配はこの整備場で終わりらしくオバサンと俺達はその場で暫く立ち話をする事になった。

「リュウ君はヒュー君の弟さん?双子なの?」
「あ、実は」
「ええ、ちょっと研修を兼ねて兄貴のトコで仕事の手伝いさせてもらってるんです。」

 懇切丁寧にオバサンに事実を話そうとするヒューの言葉を無理矢理さえぎって俺は嘯いた。

「リュウ?」
「そう言っておいた方が手っ取り早いだろ。」

 訝しげに見つめ返してくるヒューに向かって小さく耳打ちする。
 このオバサンにいちいち説明していたら折角の定時上がりが深夜まで帰れなくなりそうだ。
 適当に誤魔化して早めに帰ってもらった方がいいだろう。

「あらそうなの将来は整備士になりたいの?今までは何してたの?」

 早速興味津々といった感じでオバサンが俺に畳み掛けてくる。


「そのうち別の場所で整備士として働きたいと思ってます。ああ、今までは翻訳の仕事とかしてました。」
「へぇ!そうだったんだ!翻訳かあ〜凄いな。」

 驚いた様子で思わず感嘆の声を上げたヒューのケツをオバサンから見えない位置で思いっきりつねってやった。
 ヒューは一瞬顔を顰めたが直ぐにいつもの笑みに戻った。
 まあまだ微妙に口端がヒクついているが。
 仲のいい兄弟なら弟が今まで何をしていたか知っているのが当たり前だろうに…もうちょっと上手く演技出来ないんだろうか?
 どうもヒューは俺と比べるとバカ正直で天然ボケな所があるようだ。
 恐る恐るオバサンの方を見てみると、先刻のヒューの言葉も微妙な挙動もまったく気にしていないようだった。
 …よかった、このオバサンに気付かれてたら根掘り葉掘り聞かれていたに違いない。


 ちなみに翻訳の仕事をしていたと言うのはまるっきりウソではなく実際に俺は過去に翻訳のバイトをしていた。
 語学に関しては少し勉強すれば大体直ぐに覚えられたので翻訳は俺にとって結構割のいい仕事だ。
 その上それなりに稼げるので今でも時々バイトでやっていたりする。


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