「スミマセン、生中二杯お願いします。」

 ヒューは通りすがりの店員に空のジョッキを二つ押し付けながら注文した。
 先程から店員が通りすがる度に追加の注文をしているので忙しそうに走り回る店員にちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。

 ヒューは酔っ払っている様子はまるで無かったがアルコールと居酒屋という雰囲気の所為か普段より幾分か饒舌になっていた。
 バイクや整備、工具のメーカーの話…他愛もない話題で馬鹿みたいに盛り上った。
 これだけ沢山笑いながら話したのは本当久しぶりかもしれない。

 会話が少し途切れた所でヒューはジョッキをテーブルに置くと少し態度を改めて此方に向き直った。

「俺さ、その…彼女が死んでから他人との深い関わりは出来るだけ持たないようにしてたんだけど。」
「ウン…?」

 切り出してきた話題が話題なだけにこれまでの他愛のない話の時とは違い真剣な口調だ。
 俺は口元へ運びかけたジョッキをヒューと同様にテーブルの上に戻して向き直った。

「本来ならいきなり初対面の人間を自宅に泊めるなんてありえないんだけど…リュウは他人ってカンジがしなくてさ。それで思い切って家に泊まっていけって誘ったんだけど…本当あの時誘ってよかったよ。」
「…そうだったのか。」

 ヒューが他人との深い関わりを持たないようにしているというのは意外だった。
 なんせ初対面の俺を家に泊めてくれる位だから誰にでもフレンドリーだと思っていたのだが…どうやら俺限定だったようだ。
 何となくちょっと嬉しくなった。

「そうそう、あと俺と同じペースで酒が飲める人なんてリュウが初めてだし!貴重だよなあ。」

 ヒューはテーブルのジョッキを再び手に持つと既に何杯目かも分からないビールを一気に飲み乾して笑った。
 "同じペース"とヒューは言ったが実際には俺よりヒューの方が少しペースが速い。
 今まで俺より酒が強い人間には出会った事がなかったがヒューの方が若干強いんだろう。
 それを裏付けるかのように俺が考え事をしている間にヒューは自分だけ追加で頼んだジョッキを空にしていた。

 ふとその時店長らしき人が店のカウンターから俺達を覗き見しているのが視界の端に入った。
 店に入った瞬間、店員がなんともいえない複雑そうな顔をしたのが今ようやく分かったような気がした。
 最初は瓜二つの自分達を奇異の目で見ているのかと思ったが多分それだけじゃなかったんだろう。
 際限なく酒を飲むバケモノが同じ容姿の人間を連れてきたのだ、嫌な予感がしないわけがない。

― じゃあ、その嫌な期待を裏切るわけにはいかないよな。

 俺はビールを飲み乾し通りすがりの店員に空のジョッキを二つ押し付けながら追加のビールを注文した。


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