その後俺達は微妙にギクシャクしたまま帰路へとついた。
 まあ実際にギクシャクしていたのは俺だけだったのかもしれないが…。
 喧嘩で心身ともに疲れてしまったのか、ヒューはずっと青い顔のままで口数も徐々に少なくなっていた。
 実際にヒューは疲労困憊状態だったんだろう…仕事の後あれだけ飛んだり跳ねたりすれば当然だ。
 とにかく精神面だけでも早く気分転換をさせてやりたかったので俺より先にシャワーを浴びさせた。

 俺が風呂から上がってリビングに戻ってみるとヒューは濡れた髪のままソファに凭れて寝込んでしまっていた。
 このままじゃ間違いなく風邪をひくだろう…俺はヒューの肩に手を置いて優しく前後に揺さぶった。

「ヒュー、ベッドで寝ないとダメだろ…ソファで寝てると風邪ひくし余計疲れも溜まるぞ。」
「ン、ああ…。」

 ヒューは眠そうに目を擦るとまだ半分寝ぼけた様子で俺の方を見つめ返してきた。

「俺、ここで寝るよ、暖房つけて寝れば風邪ひかないだろうし…。」
「何言ってるんだよ…電気代もかさ張るしノドだって痛めるだろ。」
「でも…。」

 その言葉を最後にヒューは口篭もってしまった。
 多分昨夜俺を抱っこしたまま寝込んだ事を気にしているのだろう。
 俺はヒューの横に座ると一つ息を吐き出して天井を見上げた。
 ヒューは俺の事を大切な人だと思ってくれている…こうやって一人ソファで寝ると駄々捏ねるのもその思いの表れの一つなんだろう。
 だからこそ俺も自分が思っている事を素直に伝えようと思った。

「俺さ、同じベッドで誰かと一緒に寝るって事…物心ついてから初めてだったんだ。」

 俺の言葉にヒューは眠気が吹っ飛んだのか飛び上がるように身を起こすとこちらを見つめ返してきた。

「え…ッ?初めてって…彼女、とかは…!?」
「俺、実はまだファーストキスも未経験でさ…彼女も当然居ないよ。」
「ええッ!?…そ、そうなんだ…。」

 更に複雑そうな表情を浮かべるとヒューは少しだけ俺から視線を逸らした。
 ヒューは優しいから触れちゃいけない事に触れてしまった…とかどうせ思ったんだろう。

「俺は彼女が出来ない事に対して別にコンプレックス抱いてないから、そんな気にしなくていいよ。」
「あ、うん…。」

 ヒューはそれでも何か浮かない顔をしていた。
 はっきりしないヒューの態度が微妙に気に掛かったが、とりあえず話の続きをする事にした。


「だから、誰かと並んで寝るってのは純粋に嬉しかったよ。…本当の兄弟が出来たみたいなカンジでさ。」
「そうか…。」
「ヒューが初めてで、良かったって思ってる。」
「え!!」

 再びヒューは驚いた様子で身体を浮き上がらせると俺の方を食い入るように見つめ返してきた。
 その表情は真っ赤で、どこか鬼気迫っている。

「?…どうしたヒュー、すごい顔真っ赤だぞ。」
「あ!!いや、別に…。」

 ヒューは俺から顔を背け再び視線を逸らした。
 髪の毛から覗く耳が真っ赤だから、多分まだ顔も真っ赤なままなんだろう。
 思っていたよりもずっとヒューは照れ屋なんだな…。

「だからさ、その…俺こうゆう事を言うのに慣れてないから何て言っていいのかよく分からないんだけど…気を使われると何か、淋しいからさ。」
「…リュウ。」
「さ、早くベッドで休もう?ヒューの方が疲れているんだからさ…どうしてもソファで寝るって言うなら俺がソファで寝るから。」

 俺の言葉に暫く考え込んだ後、ヒューは無言で立ち上がるとこちらを見つめてきた。
 その顔はまだ紅潮がとれず酒を飲んだ時よりも赤い顔をしている。

「分かったよ…一緒に寝よう。その…、俺が初めてで良かったって言ってくれて、ありがとう。」

 ヒューは「ありがとう」の部分は俺とは視線を合わせないようにそっぽを向いて言った。
 礼の言葉に何だかコッチまで照れてきて…俺は照れ隠しに髪を掻いた。


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