「…ヒュー、まだ寝てないのか?」
「…うん。」

 やはりまだ眠っていなかったらしく天井の方を向いていたヒューが寝返りを打って俺の方に向き直った。
 別に普段向かい合うのは何とも思わないのに薄明かりの中ベッドでこうやって向かい合うのには少しこそばゆい感覚を覚えた。

「早く寝ないと明日寝坊するぞ。」
「ああ、でも俺…寝相悪いからリュウに何かしないか心配で。」

 やはりまだ昨日の事を気にしているようだ…抱っこしていた事なんてそんな大した事でもないのにヒューはちょっと気にしすぎだ。
 俺は一つ盛大に溜息をつくとヒューに提案を申し出た。

「ヒュー、むこう向いて。」
「むこう?」
「俺に背を向ける格好しろって事。」
「…ん、分かった。」

 ヒューは再び寝返りを打つと背を俺に向けた。
 男にしてはかなり細い印象を受けるヒューだが、こうやって近くで見るとその背は広く逞しい。
 まあ俺も似たようなモンなんだろうが…。
 俺は手を伸ばすとヒューの後ろからしがみつく形でその背を抱き寄せた。

「リュ、リュウ?」
「俺がこうやって後ろから羽交い絞めにしてれば寝相悪くたって動けないだろ。こうでもしなきゃお前朝までずっと寝そうにないからさ…。」
「ご、ごめん…。」

 顔は見えないがとても申し訳無さそうな雰囲気が少し丸まった背中越しに伝わってくる。
 仕事をキビキビとこなし顔色一つ変えず不良をブッ倒すクールなヒューからは想像もつかない姿だ。
 俺は寝つきの悪い子供を安心させるかのようにヒューを少し強めに抱いて呟いた。

「おやすみ。」
「うん…ありがとう、おや、すみ…。」

 言うや否やヒューは即行で眠りについたようだ。
 あまりの寝つきの良さに思わず苦笑が漏れる。
 こうやって後ろから抱きついたのはヒューを安心させる為にした事だったのだが、俺の予想以上に効果を発揮したようだ。
 ヒューが寝付いた今もう抱きつくのを止めても問題ないだろう…俺はヒューの腰に回していた腕をほどこうとして一瞬とどまった。

「…。」

 温かい背中越しに伝わる鼓動、規則正しいその音にまた心地よさを覚えた。

― もうちょっとだけこうしていようか…。

 そう思っているうちに俺も何時の間にか眠りについてしまった。


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