目を覚ましてみると自分の目の前にヒューの寝顔があって俺は驚いて飛び起きた。
 昨夜は結局あのまま寝てしまって多分寝ている間にヒューを羽交い絞めするのを止めたんだろう。
 締められたカーテンの隙間からは日の光が差し込んでおり小さく鳥の囀りが聞こえる。
 サイドテーブルに置かれた時計を見てみると丁度あと数分で目覚ましが鳴る所だった。

「…ヒュー、朝だぞ、起きろ。」

 目覚まし時計のスイッチを切って俺はヒューの肩を大きく揺さぶった。
 ヒューは僅かに顔を歪めると半身を起し伸びをしながら大きく一つ欠伸をした。

「おはよう、リュウ。」

 まだ少し眠たそうな様子だったがヒューは朝には強い方らしくしっかりとした口調で俺に挨拶をしてきた。
 ベッドから出るとヒューと並んで廊下を歩く。
 どうやら廊下を歩きながら寝癖のついた髪をぐしゃぐしゃと直すクセは俺もヒューも同じらしい。
 まるっきり同じ行動をしている事に気がついて二人顔を合わせて笑った。

 朝食後、冷めたコーヒーを飲みながらニュースを見ていた俺にヒューが声をかけてきた。

「なあ今日はバイクで出勤しないか?」
「ああ、別に構わないけど。」

 ヒューの整備場までは此処から徒歩で大体20分か30分程度だ。
 バイクで行くとなると微妙に短い距離なのでヒューは自分のバイクを整備する時以外は大体徒歩で通っていると言っていた。
 といっても整備好きなヒューの事だから実際は殆ど毎日バイクで通っているんだろうと俺は勝手に思っているが。

「じゃあ俺は先に歩いて整備場に行くから。」

 コーヒーを口に運びながらそう言うとヒューはかなり驚いた様子で目を丸くした。

「何言ってるんだよ、一緒に行くに決まってるだろ?ヘルメットは…ああ、リュウのは整備場におきっぱなしだから俺の貸すからさ。」
「…タンデムするって事か?うーん、俺タンデマーの経験ないけど大丈夫かな…。」

 そう、俺はタンデマーの経験がない。
 しようにも俺を乗せてくれるような…そうゆう知人が居ないからだ。

「へぇ、意外だなあ。リュウが一度もタンデムの経験ないだなんて。」
「ああ…俺って友達全然居ないからさ。」
「え!?リュウって優しいし気さくだから友達多いのかと俺は思ってたんだけど。」

 今度はヒューの言葉に俺は目を丸くした。

「俺の事をそんな風に言ってくれたのはヒューが初めてだよ。何考えてるか分からなくて怖いとか掴み所が無いとはよく言われるけど。」
「あ、俺も掴み所がないとは時々言われるよ。そっか…じゃあ俺がリュウと初めてタンデムする友達って事だな。」

 つり目がちの目を細めてヒューは照れくさそうに笑った。

「そうだな、タンデムだけじゃなくて…。」
「え?」
「ヒューは俺にとって初めて友達って呼べる存在だよ。」

 まだヒューと出会って3日目だ。
 長い年月をかけて築いた友情とかそうゆう立派なモノじゃないけれど…ヒューの事は友達だ、と胸をはって言える。
 俺の言葉にヒューは最初驚いてその後、本当に嬉しそうに笑って…

「ありがとう。」

 とだけ、力強く俺に言った。
 その言葉だけで、十分だった。



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