かなり張り切って働いたお陰か、膨大な仕事の量の割には定時にあがる事が出来た。
 仕事が終わった時にはヒューも俺もそこかしこ油まみれだったので寄り道はせず早々にヒューの家に帰る事にした。
 整備場のシャッターを閉める前にみっちりトビーズを説教しているヒューが印象的だった。


 家に着くとまず先に俺が風呂に入って油を洗い落とす事にした。
 ここの広い風呂とも今日でお別れだ…明日からは自分のアパートの狭い風呂に入る事を思うとここを離れるのが益々淋しくなった。

「明日にはお別れか…あっという間だったな。」

 湯に浸かりながらぼんやりと呟く。
 初めてヒューに出会ってから今日まで本当にあっという間だった。
 でもこの僅かな数日間は俺にとっては幾十年に匹敵するほど貴重な日々だったと思う。

「…もうちょっとだけヒューと一緒にいたかったな。」

 そう呟いてから”もう暫く此処に居たい”と思う自分に不思議な感覚を覚えた。
 故郷にさえ自分の居場所はないと感じた俺だったが此処には自分の居場所があるような気がした。
 …いや、居場所がある、ないじゃなくて、俺が自分の意志で此処に居たいと…そう思った。
 そしてふと故郷には居場所が無かったんじゃなくて俺は自分でそれを作ろうとしなかっただけなんじゃないだろうか…今更ながらにそんな事を思った。

「でも、今更戻るのもな…。」

天井を見ながら俺はまたぼんやりと呟いた。

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