名残惜しさからゆったり長湯しすぎた所為で俺はすっかりのぼせてしまっていた。
後で冷えたビールでも分けてもらおう…そんな事を思いながら廊下を歩いていくとヒューがリビングから顔を覗かせ俺の方に手招きをした。
「リュウ!」
「どうした?ヒュー。」
「これ、俺からの餞別。」
ヒューが差し出してきた紙袋を見てみるとそこにはあの整備場特注の緑のつなぎが3着程入っていた。
多分一つが長袖で、あと二つが半袖だろう。
「リュウが仕事中に着てたのは今洗濯して乾燥機にかけてるからさ、明日の朝にコレと一緒に持っていってくれよ。」
「え…でも、いいのか?これって結構高いだろ?」
「いいんだ、俺達仕事仲間だろ?このつなぎはその証だからリュウに持っていってもらいたいんだ。まあ、確かにかさ張って邪魔になるかもしれないけど…。」
「邪魔だなんて!凄く嬉しいよ…ありがとう。」
俺が紙袋を受け取るとヒューは少しほっとした様子で微笑んだ。
「またこっちの方に来たらさ…自分の家だと思って気軽にココに寄ってくれよ、何時でも歓迎するよ。」
「ああ、ありがとう、絶対に…また来るから。」
照れくさそうに笑う俺を突然ヒューが強く抱き締めた。
いきなりで吃驚したが俺も片手に紙袋を持ったままヒューを強く抱き返した。
「絶対にまた、来いよ…。」
抱き合ってる所為で顔が見えないヒューのその声は、ちょっとだけ震えていた。
その夜は寝る間を惜しんでずっとヒューと語り合った。
バイクの事や家族の事、ヒューの彼女の事も、ちょっと…大きな声では言えない事も。
沢山笑って、時には一緒に意気消沈して落ち込んで、励ましあって…。
気がつけば外は何時の間にか白白と明るくなり始めていて鳥の鳴き声が聞こえ始めていた。
「…今日の仕事は、ちょっと辛そうだな。」
そう言ってヒューは肩を竦めて笑った。
→27