暫くしてようやく救急車がやってきた。
 救急隊員がヒューの元へと駆けより状態を素早く確認する。
 慎重に担架に乗せられ運ばれるヒューの後を追い救急車へ乗ろうとして俺は救急隊員に止められた。

「…!?何で止める?」
「君もケガをしている、この後また直ぐ救急車がくるからそっちで応急手当をするんだ。」

 …言われて初めて気がついた。
 どうやら頭から結構な量を出血しているようで首元まで流れた血がシャツを汚していた。

「…くそッ。」

 ヒューの事が心配だったがこんな状態で駄々をこねるわけにもいかない。
 俺はヒューが救急車で運ばれていく様子をただ見守るしかなかった。
 トビーズ達がこっそり乗り込んだ直後にドアが閉められヒューを乗せた救急車がけたたましいサイレンを鳴らして走り出す。
 小さく遠ざかっていく救急車を、ただ、ヒューの無事を強く祈って俺は見送った。



…それが、俺とヒューの離別となった。



 その後直ぐにきた救急車の中で応急処置を受けている最中、俺は猛烈な眠気に襲われた。
 昨日完徹したのと出血の双方が手伝ったのかもしれない。
 まだ意識を手放すわけにはいかない…病院についてヒューの安否を確認するまでは。
 でも意思に反して鉛のように重くなっていく瞼に抵抗できず俺はそのまま眠りについてしまった。



 次に目を覚ました時にはそこは病院のベッドの上だった。
 右腕と頭に包帯が巻かれている。
 急に起き上がろうとして体が軋み、思わず呻き声を漏らして再びベッドに身を沈めた。
 まるで何日間も起き上がらずに眠りつづけた後のような…自分の体が自分の物でないような感覚。

 一呼吸置いてゆっくりと起き上がり窓の景色を見て俺は愕然とした。
 そこに広がっている景色は俺がよく見知っている景色…つまり俺の住んでいる街だった。

「…どうゆう事だ!?」

 ヒューの住んでいるあの街から俺の住んでいる街まではかなりの距離がある。
 救急車で運ばれてくるような位置ではない。
 その時背後でドアの開く音が聞こえ俺はそちらに視線を移した。

「ああ、やっと意識が戻ったんですね。まだベッドで安静にしていないと駄目ですよ。」

 入室してきた看護婦が優しい口調で俺に諭すように言う。

「ここは…!?いや、俺と一緒に運ばれてきた、俺によく似たヤツは、生きてるのか?!」

 俺は捲くし立てるように看護婦に問い掛けた。
 が、看護婦は何を言っているのだろう?といった困惑の表情で俺を見つめてくる。

 俺の方が、もう何が何だか分からくなっていた。


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