医者は俺が頭を打ったために軽い記憶障害を起こしているんだろう、と言った。
 事故後の昏睡状態の間に見た夢が現実とごっちゃになっているんだという。

 俺は急に飛び出した子供を避けた為に単車で自損事故を起こしたという事になっていた。
 子供に怪我はなくて、病院に運ばれてきたのは俺一人。
 4日間くらいずーっと寝込んでいたらしい。


 …じゃあ、あれは…。
 ヒューと過ごしたあの時間も、何もかもが全て、事故で寝ている間に見た夢だったのか。
 …夢。
 そうか、夢だったのか。
 たかが、夢…。
 しかし俺は情け無い事に酷い喪失感から放心状態に陥ってしまい暫くベッドから起き上がれなくなってしまった。



 翌朝、漸くベッドから起き上がり俺は医者から半分無理矢理退院の許可を貰った。
 事故当時に着ていたシャツは血だらけだったので病院で処分してもらう事になった。
 ジャケットの方もファーの部分が酷く血に汚れてしまっておりシャツと一緒に処分しますか?と看護婦が聞いてきた。
 一瞬迷ったが結構気に入っていたし値段も高かった事もあって捨てるのが惜しかったので処分の申し出を断り着ていく事にした。
 事故った単車は俺の勤めている整備場にそのまま運ばれているらしい。
 とりあえず俺は職場に向かう事にした。


→31


←BACK