「子供を避ける為とはいえ、自爆なんて情けない…ゴメンな。」

 俺は整備場の中心に置かれた愛車を撫でながらぼやいた。
 俺が4日間も寝込む程の事故だから大層酷い有様になっているのかと思えば塗装が激しく剥げているのとバックミラーが壊れている以外は目立った損傷はなかった。
 でも見えない部分にガタがきているかもしれない。
 見落とさないように入念に点検をしているとある一ヶ所に目が止まった。
 後輪のパーツの一部…そろそろ交換しないといけないと思っていたその部品に違和感を感じた。
 使い古している筈のそれは何故か一度も使っていないような殆ど新品の状態だった。
 …それは夢の中でヒューが交換してくれた部品。

 俺はふとある事を思い出してジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
 指先に確かに感じる、封筒越しの少し厚手の紙の感触。
 高鳴る動悸を抑えるように俺は一つ息を吐き出してそれをゆっくりと取り出した。


 事故の所為だろうか、ボロボロになってしまい四隅のうち2箇所が今にも千切れ落ちてしまいそうな写真に写っていたのは、俺と、青い髪とアイスブルーの瞳以外は俺と寸分違わぬ容姿を持つ青年。


 俺は飛び上がるとバイクにくくりつけられたままのカバンを乱暴に外しファスナーをあけた。
 中にはヒューがくれたあの整備場のつなぎが無理矢理押し込まれていた。

 やっぱり、俺たちはあの時一緒にいたんだ…!

 じゃあ何故?という疑惑が同時に胸に浮かんだ。
 医者がウソをついていたとは思えない、ついて何のメリットがあるんだ。
 それ以前に事実が一致しない、矛盾しすぎている。

 とりあえず俺はつなぎのワッペンに小さくにかかれていた電話番号に電話をかけてみたが現在使われていないと平坦な声で冷たく言われた。
 電話がダメなら…そう思いあの整備場の所在地をネットで確認してみたがその場所には整備場どころか建物さえ建っていないとの情報が出た。
 探せば探すほど出てくる情報は"お前は夢を見ていたんだ"そう俺を諭すようなモノばかりで…。
 確かに写真とつなぎがなければ夢かまぼろしだと思っても仕方のない状況だ。

「一体、どうゆう事だ…?」

 まるでヒューと一緒にいたという事実が無理矢理都合を付けられて無かった事にされた…そんなカンジだ。
 でも、俺たちは確かに一緒にいた。
 俺は舌打ちをして髪を片手で乱暴に掻き毟った。

「…Shit!今の俺は不思議の国に迷い込んで現実に追い返されたアリスかよ!」

 神の悪戯、としか言い様が無かった。



 翌朝、俺はいつも自分が仕事で使っていたつなぎとは違うつなぎ…ヒューから貰った緑のつなぎに腕を通した。
 胸元までしか上がらないファスナーを閉め鏡の中の自分を見つめる。

…ヒューを、探そう。

 多分そうそう簡単に見つかりはしないだろう。
 でもどんな手段を用いても絶対に見つけ出す。
 今の俺はヒューが生きているのかどうかさえ分からない…このまま忘れ去ろうとしても絶対に後悔をするだろう。

 俺は生まれて初めて自分の意志で何かをやり遂げようという強い想いを抱いていた。
 俺の、自分探しが始まった。



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