ヒューを探し始めてから随分と月日が過ぎたが手がかりという手がかりはまったく見つからないままだ。

 時間は無駄に過ぎ去ってゆき俺の元に集まったのは俺には必要のない情報ばかり。
 そしてその情報を欲しがる人間が置いていった金くらいだ。

 休日は以前よりも家に引きこもる事が多くなり数少なかった知人との交遊も殆どなくなってしまった。
 出歩く事があっても知人達と出歩くわけでもなく一人買出しや情報収集の為に出かけたり、街の中をヒューの面影を求めて時折ふらふらと彷徨うくらいだった。
 声を出して笑う事もあまりなくなったし以前よりもずっと無口になったと自分でも分かるくらいだ。
 睡眠時間が大幅に減って慢性的に目の下に隈が出来るようになり視力も微妙に悪くなってしまった所為か、親方に以前よりも目つきが悪くなったなとつっこまれた。

 沢山の物を失って、でも俺はまだ本当に欲しい物を手に入れられないでいる…。
 そうそう簡単に見つかるものではないと思っていたが流石に俺も少し焦りを感じ始めた。



 そして昨夜も大した情報を手に入れられず俺は昼の仕事…寝板に寝転んで車の下に潜り込み自動車の整備をしていた。
 暖かい陽気に僅かに眠気を覚えたので少し休憩しようと車の下から出てみると自分の顔の左右に長い棒…KKの足があった。
 どうやら丁度KKの股下に顔を出してしまったらしい。

「…Kのオッサン。」
「よお、ヒュー。今日もいい天気だなあ。」

 まるで今日の陽気のような気の抜けた返事が返ってくる。
 俺は寝板に寝転んだ状態でKKを見上げた。

「何か用?こんな昼間っからオッサンが出てくるなんて珍しいな。」
「おお、お前の自分探しの旅のお手伝いをしてあげようかと思ってな。」

 KKの言葉に俺は露骨に顔を歪めて舌打ちした。

「チッ…からかいに来たのか。遊んでるヒマがあるなら帰って寝ろよ。」
「何だ、つれないなあ〜。あ、このまましゃがんでやろうかな。」

 再び車の下に潜り込もうとした俺をKKは寝板に足を引っ掛けて乱暴に止めた。
 動きを止められ面倒くさそうにもう一度視線を上げてみるとKKは相変わらずにこにこと不気味な笑みを貼り付けたままだ。

「まあまあ、そう焦んなって、ちょっとは俺の話も聞けよ。」
「あのな、仕事の邪魔すんなよ。」


 俺は寝転んだままKKに忌々しげに吐き捨てた。
 そんな俺の言葉など聞く耳持たない様子でKKは一歩後ろに下がるとその場にしゃがみこみ、ナイショ話でもするかのように俺に顔を近づけてきた。

「…お前さ、この前自分探しの事を青春時代にするような自分とは何なのか!…を見つける事だって言ってたけどさ。」
「ああ。」
「そうじゃなくて、その自分ってのが実は自分と瓜二つで微妙に毛色の違う、まったく別の人間だったとしたら…。」

 俺はKKの言葉が終わる前に寝板から転がり降り半身を起こしてKKに食い入った。

「何か知ってるのか!」
「んーいいね、俺お前のそうゆう素の驚きの行動って初めて見るぜ。」

 満足そうにニヤニヤとKKは笑いを浮かべ先ほどの続きをもったいぶるかのように話し出した。

「…心当たりはある。」
「本当か!?」
「ああ、俺の知ってるヤツでよ、もう一人の自分はいつも手抜いて仕事してるだの何だの愚痴ってるのを聞いた事があってな。」
「誰なんだ、ソイツ?」
「あ〜…。」

 KKは顎の無精ひげをひと撫ですると苦笑混じりでぼやいた。

「俺が殺せなかったバケモン…ってトコかな?」



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