「とにかく詳しい話が聞きたい…と言っても今ここで聞くわけにもいかないし、今夜日付変わったあたりにアンタの家へ行ってもいいか?」

 ヒューに関する情報が少しでも早く欲しくて俺はKKにちょっと無茶な相談を持ちかけた。

「ああ、でも今夜は俺も仕事が入ってるから何時帰れるか分かんねぇぞ。」
「そっか…じゃあ俺が先に着いたらアンタの部屋で待ってるからさ。」
「待ってるって…俺はお前に合鍵渡した覚えはねぇけどなあ?ん?」

 KKが俺に投げかけて来た言葉は疑問というよりも俺を責めるモノだった。
 俺が勝手にKKのマンションのセキュリティを破った事に腹を立てたのだろう。
 自業自得だ、あの時KKがあんな意地悪しなきゃ俺だって無意味にセキュリティに侵入したりしなかっただろう。
 責めの言葉をそっぽ向いてシカトした俺に対してKKは忌々しそうに舌打ちすると伸びっぱなしの髪を掻き毟った。

「ったく引越し真剣にかんがえなきゃな…あーもういい。俺がお前のアパートに行く。確か101号室だったな?」
「いや、今回は仕事に関わる話だし205号室に来てくれ。」
「…205号室?お前2室も借りてるのか?」

 205号室、という言葉に片方の眉だけを器用に上げてKKが不審そうに言った。

「ああ、正確に言うとあのアパートは全室俺が借りてる。」
「全室って…お前それヘタなマンション買うより金かかってんじゃねえか?あのアパートそれなりにイイアパートじゃねえか。」

 尤もなKKの質問に俺は少し小声で答えた。

「俺が日本に来るちょっと前にあのアパートで殺人事件があったらしくてさ、借り手が誰もいないからって親方の知り合いが格安で貸してくれてるんだ。」
「へぇ〜そうかそうか、物騒な世の中だなあ。」

 KKは腕組をすると神妙な顔つきでウンウンと頷いた。
 全く関わりの無い世間話をしているかのようなKKの白々しい態度に俺は呆れて横目で睨め付けた。

「…オッサンしらばっくれるなよ。205号室、やったのアンタだろ?」
「あぁ、何だ知ってたのか。」

 俺の言葉にころっと態度を変えるとKKはカラカラと笑った。

―数年前、ある人物が掃除屋によって制裁を受けた。
 その部屋が205号室だ。
 現場は血まみれでかなり凄惨なモノだったらしく室内の壁紙等全て張り替えしたらしい。
 その話を聞いた俺はこのアパートを借り始めた当初は205号室にはなるべく近づかず一番離れた101号室だけを使っていた。
 だがヒューを探し始めてから、俺はあえてこの205号室を"仕事"をする部屋に選んだ。
 殺人事件があった部屋に好き好んで近づこうという人間はそう居ないだろうし、肝試しをするならもっと別の場所を選ぶだろう。
 裏家業の人間からすれば、掃除屋が関わっているというだけで敬遠する輩も多い。
 掃除屋の手によって凄惨な殺人事件が起きた…その事実だけであの部屋のセキュリティは他の部屋に比べかなり高くなっている。
 尤も俺自身かなり手を加えてセキュリティを高くしているから、205号室にそうそう簡単に侵入できる人間など現代のこの世界には居ないだろう。

「じゃあお前俺に感謝しろよ?俺のおかげであんないいアパートに格安で住めるんだからな。」
「幽霊にとり憑かれた時には幽霊に代わってアンタを恨んでやるよ。」

 得意顔でこちらを覗き込んでくるKKに俺は顔を顰めて毒づいた。




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