KKと今夜会う約束をした後、俺は再び整備中だった車の下に潜り込み整備の続きをした。
 先ほどまで俺を襲っていた眠気は吹飛び、今は自然に浮かんでくる笑みを堪えるので必死だった。
 こんなに浮かれた気持ちで仕事をするのは初めてかもしれない。
 浮かれ過ぎて失敗しないように慎重に作業をしなくてはと俺は心の内で自分を叱咤した。

 もしかしたら、もうすぐヒューに会えるかもしれない。
 あの事故の後、ヒューは元気にしてただろうか?アイツの事だからきっとちゃんと生きてる。
 もし会えたら、まず何を言おう?
 俺と別れた後、何をしていたのかまず聞こうか。

 そう思い至った所で俺は整備していた手を止めた。
 さっきまでの浮かれた気分は無くなり、血の気が引いて胸元が冷たくなっていく感覚に襲われた。

 ヒューと別れた後…俺は何をしていた?

 整備をしていた自分の手を目の前に翳してみる。
 指から手の平まで油で真っ黒に汚れた手…油汚れだけじゃない、俺の手は今や完全に汚れきっている。
 KKには俺は一般人だと言い張っているが、もうそんな子供じみた我侭が通じるレベルじゃない事くらい分かっている。
 俺はもう表の世界の人間じゃないんだ。
 裏の世界に足を踏み入れた事…それはヒューを探す為にした事だ、後悔はしていない。
 だけど、もしも俺がヒューを探す為に裏の世界に首を突っ込んだ事を当のヒュー本人が知ったらどう思うだろうか。
 ヒューは優しいから…俺が危険を冒した事に対してきっと深く傷つくだろう、哀しむだろう。
 もしかしたら俺に幻滅したり軽蔑するかもしれない。
 幻滅されたり軽蔑されるのは構わない、けどヒューが傷つくのだけは耐え難かたかった。

 尤も真実を告げる事でヒューが傷つくのならば全てを話さず裏に関する部分はウソをつけばいいだけの話だ。
 偽る事、それは情報を扱っている俺にとっては専売特許みたいなモンだ。
 でも俺にはヒューに対してウソをつき真実を隠しとおせる自信が全くなかった。
 あの澄んだ青い瞳に見詰られたら全てを見透かされてしまいそうな気がして…随分と情けない話だ。


  ヒューに会いたい。
 会いたかったから、必死になってヒューを探した。
 どんな手段を使ってでも、見つけようと思った。
 だけど、俺がヒューに会う事はもう叶わない事なんだ…。

「…。」

 油に汚れた手をきつく握り締め俺は目を細めた。



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