俺は目の前に無残に転がった8人目の死体を蹴っ飛ばした。

「手ごたえがねえな…よっぽどこのビルのどこかで脅えてる一般人の方が手ごたえがあるぜ…っと!」

 背後からナイフを手に襲い掛かってきた刺客の手首を掴み背負い投げをする。
 地面に強くたたきつけて動きを止めた後首の骨を折りとどめをさす。

「さてと…後3人。」

 その時上方から争う物音が聞こえてきた。
 まずい、どうやら隠れていたヒューが刺客に見つかったようだ。
 俺は一気に階段を駆け上がり音のした方へとダッシュした。

「…っと!」

 角を曲がった所で足元に転がっていた刺客を思いっきり蹴飛ばしてしまった。
 うう、という呻き声を漏らしてまた動かなくなる。
 どうやらヒューに殴打されて気を失っているようだ。
 視線を移すと数メートル先にももう一人転がっている。

「悪いな。」

 殺さないように気を使ったヒューには申し訳ないがこいつ等を生かしておくわけにはいかない。
 気を失ったままの二人の刺客を先刻と同じ様に息の根を止める。
 二人目の首の骨を折った所で遠くからヒューの声が聞こえた。
 切羽詰ったその声にあまりよろしくない状況というのを察し俺は声の方へととにかく走った。
 ここまできてヒューを殺されるわけにはいかない。

「…!」

 崩れかけた部屋へ入るとそこには刺客と向き合うヒューの姿があった。
 数メートル離れた位置の刺客にヒューは銃口を突きつけられている。
 追い詰められたヒューの背後には文字通り何も無い…壁は崩れ落ち剥き出しの床ギリギリの場所に立っていた。
 一歩後ろへ行けばビルからまっさかさまだ。
 流石のヒューもこれでは弾丸を避けようがない。

「動くなよ、コイツを撃つぞ。お前の連れなんだろう?」

 刺客が俺に向かって一丁前に脅しの言葉を投げかけてくる。
 その言葉にヒューの表情がはっとなった。
 どうやら漸く俺の存在に気がついたらしい。
 そして表情を強張らせ刺客を睨みつける。
 その目は冷たく研ぎ澄まされ何かを決意した強い意志が宿っているかのように見えた。

「俺は…お前の思惑通りになんて、ならない!」

 ヒューは刺客に叫び、そして後ろへと一歩下がった。
 あっという間に俺と刺客の視界からヒューが消える。
 予想もしていなかったヒューの行動に驚き動きが止まった刺客を俺は容赦なく撃ち抜いた。
 そして生命活動を停止させた刺客には目もくれずヒューが先刻まで立っていた場所まで駆け寄る。
 この高さだ…不運の塊のヒューが生きている可能性は…。

「…な!?」

 下を見下ろしてみると想像していた光景とは違うものが視界に入った。
 俺の居る階から2つほど下の階の縁にヒューが掴まっている。
 上から様子を伺う俺に気がついたのか、ヒューはこちらを見上げると俺を安心させるかのように微笑んできた。

「KKさん、大丈夫ですか?」
「ああ、仕事は済んだ…っつーか俺の心配してる余裕あるのかお前!?」
「大丈夫です!半分賭けだったんですが出っ張りの多いビルでよかったです。あ、俺このまま下に降りるんで!KKさんすみませんが俺が落としてきた工具拾ってきてくれませんか?KKさんとあった場所にスパナと貫通ドライバーがあると思うんでお願いします!」

 そう言い残すとヒューは再びビルの出っ張りに掴まりながらちょっとずつ降りていく。
 俺は今度こそ心底呆れた。
 少しでもヒューの事を心配した自分にも、呑気でマイペースなヒューにも。
 そういえばリュウの奴、こんな事をいっていたっけ…「あいつマンションの屋上から飛び降りて遊んだ事があるらしい。」
 ソレは流石に酒が入ってついつい言ってしまった大げさな嘘だろうと思っていたのだが、どうやら事実のようだ。
 本当にとんでもない常識外れなヤツだ。
 更に俺とやりあった時の鈍器と暗器がスパナと貫通ドライバーだと知ってなんとも言えない脱力感に襲われた。
 そりゃ今までやりあったこともない得物の筈だ。
 後で「整備士なら工具を大事にしろ!」と叱ってやろうと思いつつ、俺は死体の転がるビルの中へ工具を探しにいく事にした。


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