風呂から上がると俺より先に浴室から出ていたヒューはソファに座ってこくこくと転寝をしていた。
 軽く肩を揺すって「ベッドで寝ろ」と言ってみたが何か唸ったきり動こうとしない。
 とりあえずソファにヒューを横たわらせて俺は冷蔵庫の方へ向かった。

「大量に買ってくるってもこれは買いすぎだろ…。」

 冷蔵庫にぎっしりと詰まった黒ビールに呆れる。
 まあそれでもヒューと俺が本気で飲んだらあっという間に無くなってしまうだろう。
 屈みこんで冷蔵庫の奥の方まで見てみたがビール以外に入っている物は殆ど無い。
 普段のKKの食生活が窺い知れる中身だ。
 こんな冷蔵庫の内容では明日の朝食は大した物は作れなさそうだ…俺はまだ濡れた髪をボサボサと掻き乱した。
 とりあえずその場でビールを一本煽ってからヒューのいるリビングへと戻った。
 ヒューは先刻と変わらずソファに横たわりすっかり寝込んでしまっている。

「ヒュー、ほら一回起きろ。ベッドで寝るぞ。」
「ンン…うー。……。」

 強く揺さ振ってもやっぱり起きようとしない。
 これは憶測…というより確信だがあのKKとやりあったんだ、全身が疲労して起き上がれないのも無理もない。
 こんなに疲れているのなら無理して俺の背中なんて流しにこなければよかったのに…。
 目を覚ました時に俺が隣に居なかったのがそんなに不安だったのだろうか。

「本当、心配性だな。」

 でもその事がとても嬉しく思えて俺は苦笑交じりでヒューの寝顔を見つめた。
 このままヒューをゆっくり寝かせておいてやりたかったが流石にソファに寝かせたままというわけにはいかないだろう。
 俺はヒューの腕を自分の肩に回しソファから無理矢理立ち上がらせた。
 それでもヒューが起きる気配は無く、俺はそのまま寝室までヒューを担いで歩いて行く事にした。

「…しょっと。」

 漸くの思いでヒューをベッドの上に寝かせる。
 火照った体で重い物を運んだ為、湯上りだというのにすっかり汗だくになってしまった。
 そんな俺の苦労もしらずかヒューは気持ちよさそうな顔で寝入ったままだ。

「…。」

 ヒューの肩まで布団をかけてやってから自分も布団にもぐりこむ。
 そして初めてこうやってヒューと並んで眠った日の事を思い出した。
 寝返りを打ってぐっすりと眠るヒューの寝顔を見つめる。
 長い睫毛も白い肌も…ヒューはあの時と変わらない。

「…。」

 もう一度寝返りを打って俺は高い天井を見上げた。
 あの日から今日まで…本当に長かった。
 ヒューと会う事を諦めていた俺にとって再びこうやって一緒に並んで眠れる日が来るなんて思ってもいなかった事だ。
 KKには感謝しないといけないな…。

「おやすみ。」

 返事をしないのは分かっていたけれど、ヒューにそう言ってから俺は眠りについた。


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