ヒューと一緒に食器の片付けをしてからリビングへと戻る。
 ぬるめに作ったコーヒーをヒューがテーブルに並べ、俺はソファに座ってテレビをつけた。
 その一連の動作がヒューの整備場での事務所での動作と似ていて、俺はフとあの時の事を思い出した。

「そういえばヒュー、事故の怪我、…大丈夫だったのか?」
「ん。ああ3日くらいで退院できたよ。」
「…は!?3日って随分早いな。」
「さっき言っただろ?身体が丈夫な事だけは自慢だって。」

 そう言うとヒューは自慢げに胸をそらせた。
 俺は退院するまでに5日掛かったのに、車に撥ねられたヒューの方が早く退院しているとは…。
 本当に丈夫な身体で且非常に回復能力が高いのだろう。

「そっか、後遺症が残るような大きな怪我にならなくてよかったな。」
「ああ。」

 そこでお互いコーヒーを口に運んだため一旦会話は途切れた。
 事故の後、俺がバイクごと突然居なくなってしまった事を聞かれるかと思ったが、ヒューが俺に対して疑問を投げ掛けてくる事はなかった。
 逆にその事に俺は疑問を抱いたが、ヒューなりに気を使ってくれているのかもしれない。
 KKから聞いた話をしてもいいかと思ったが、ヒューの頭を激しく混乱させてしまうだけかもしれないと思ったので今は黙っておく事にした。
 冷めたコーヒーを一気に飲み乾し、俺はポケットから携帯を取り出してKKのアドレスを探した。

「…よし、じゃあオッサンに電話してみるよ。」
「ああ、部屋ありがとうって礼も言っておいてくれよ。」
「ん、分かった。」

 KKに発信しながらヒューに相槌を打つ。
 暫くしてKKが電話に出た。

「ああ、オッサンおはよう。」
― おう、どうした?
「車を貸して欲しい。いいか?」
― あ〜一台は今俺が使っちまってるから黒の方を使えばいい。…ヘンな事に使うんじゃねえぞ。
「分かってるって。出来るだけ目立たないようにする。あとヒューが部屋ありがとうって。」
― ああ、あまり散らかすなよ。
「ん、それじゃな。」

 いつも通り最低限のやり取りをして通話を終了する。
 随分素っ気ないやり取りなんだな、とヒューに笑われた。
 そのまま携帯の時計を見てみると出かけるまでにはまだ時間があったので、俺は一人で近所のスーパーまで買出しに行く事にした。
 ヒューも一緒に行きたいと言ったが、そっくりな人間が並んでスーパーの中を歩いたら悪目立ちしてしまうだろう。

「そうだ、冷蔵庫の中が缶ビールだらけで食材入れるスペースがないからさ、ちょっと飲んで空けておいてくれよ。」

 そうヒューに言い残して俺は一人マンションを出た。


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