ヒューに部屋を貸している間に久しぶりにマコトの美容院へ散髪へいったのだが、案の定ヒゲまで綺麗に剃られてしまった。
無精ひげがないというだけで頬を掠める風が何時もより涼しく感じる。
つるつるになった顎を指でなぞりながら俺は舌打ちした。
マンションへ向かう道を進むと途中の縁石にヒューが腰掛けているのが視界に入った。
「…ヒュー。」
声をかけるとヒューはいつもと変わらない不機嫌そうな顔を俺に向けた。
「何だ、泣いてるかと思った。」
「泣いてねえよ。」
そう言うヒューの瞼はよく見てみると何時もより少し腫れあがっていたから、多分ついさっきまでは泣いていたんだろう。
実際に見れなくて非常に残念だ。
もうちょっと早く戻ってきて二人が別れる様子を観察すればよかったと後悔した。
「それよりオッサン…何だよそのサッパリした顔。ヒゲがないと貫禄が無くなるな。」
瞼が腫れている事をつっこんでやろうと思ったのだが、先にヒューにヒゲの事をつっこまれてしまった。
大きく舌打ちしてからヒューの横に腰掛ける。
「うるせえ、ちょっとヒマだったから散髪にいってきただけだ。」
「そっか…。俺達がずっとオッサンの部屋借りてたからな。二日間もありがとう、本当助かったよ。」
「礼は別にいい。それより報酬の話だが…。」
妙に素直なヒューの反応が気味悪くて、俺は話題を無理矢理報酬の事へと移した。
「今回は、まあ俺がミスした事には変わりねぇし報酬はいらねえよ。ツケもちゃんと払う。」
「へぇ、驚いた。オッサンにもそんな一面があったんだな。」
「ったりめーだ。仕事には一応こだわり持って取り組んでるんだ。」
そう言って横目に睨みつけると、何故かヒューは笑った。
毒気の抜けたその微笑に俺は逆に薄気味悪さを感じてしまった。
背筋に走った寒気と鳥肌を誤魔化す為に「ちょっと寒くなってきたな。」とヒューにうそぶいた。
「ま、ツケの方はあまり期待しないで待ってるよ。」
腕を擦る俺にそれだけ言うとヒューは縁石から立ち上がり背を向けた。
それから駐車場の方へ少し歩いた所で立ち止まると、ヒューはこちらを振り返ってきた。
「なんだ、ヒュー。まだ用でもあるのか?」
「…ううん。いや、何でもない。」
ヒューは少し淋しげに微笑むと、俺に向かって軽く手をあげた。
はっきりとしない態度が気にかかったが、俺は無言で手をあげてそれに応えた。
「またな、オッサン。」
そう言い残して薄暗い路地裏へとヒューは姿を消していった。
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