あと30分もすれば俺達の故郷が見えてくる筈だ。
 何となく落ち着かない気分になってきて、俺は何度も座席の上で身動ぎをした。
 そんな俺に気がついたのか、隣の席に座っていたキャロが声をかけてきた。

「そろそろ着くね。やっぱりちょっと落ち着かない?」
「…ああ、ちょっとな。」
「私もちょっと緊張してきちゃった!」

 そう言うとキャロも広い座席の上でそわそわと身体を動かした。

「あのね、兄さん。」
「何だ?」
「私、兄さんが一緒に帰ってくれるって言ってくれた時、本当嬉しかった。それに飛行機代も全部出してくれて…その、結構高かったでしょ?」
「気にするなよ。俺は一応働いてたんだし、お金もあるからさ。」

 ヒューが俺によくしてくれたように、安心させるようにキャロに微笑みかけた。

「でも…。」
「キャロにもいろいろ迷惑かけたしさ…これくらいはさせてくれ。」
「うん。ありがとう兄さん。」

 妹は俺に礼を言うと、にっこりと微笑んだ。
 こんな風に俺に対して笑う事なんてあっただろうか…。
 いや、あったとしても俺は顔を背けてそれを見ようとしていなかったのだろう。
 そう思うと妹や両親に対して申し訳ない気持ちになった。

「そうだ!あのね、空港に父さんと母さんが迎えに来てくれてる筈なの。会うの久しぶりだから楽しみだなあ。」
「…は?ちょっと待て、俺そんな事一言も聞いてないぞ。」
「だって兄さんには秘密にしてたもの。勿論父さんや母さんにも秘密にしてあるよ。」

 俺は家出同然に飛び出してきたのだ、両親に会うのは当然気まずい。
 その両親に会うまでの時間が一気に縮まったのだ。
 ただでさえソワソワしていたのに、輪をかけて落ち着かない気持ちになってしまった。

「…お前な、そうゆう事はあらかじめ言ってくれよ、心の準備ができないだろ?」
「言ったら一緒に帰ってくれないかなって思って。」
「……。」

 反論できなかった。


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