落ち着かない気持ちでそわそわとしている内に30分はあっという間に過ぎ、飛行機はそろそろ目的地へと到着しようとしていた。
 ベルトを締め着陸に備える。
 俺は違う意味で動悸が高鳴るのを感じていた。
 飛行機は何事もなく空港に無事着陸し、機内の乗客たちが一斉に降りる準備を始める。
 ふと窓の外へ視線を移すと広い滑走路に止まる緑の機体が幾つか見受けられた。
 いたる所で目につく緑の色彩に故郷に帰ってきたんだという実感が一気に湧きあがる。
 俺達も準備を済ませると飛行機を降り空港へと向かった。
 キャロの話では到着ロビーに両親はいるという。
 俺は正直な所、滑走路を走って逃げたい気持ちになっていた。
 空港に到着すると荷物を受け取り渋々到着ロビーへと向かう。
 足がこんなに重くなる事は滅多にないだろう。

「兄さん、私ちょっと父さん達が心配だから先に行って様子見てくるね!」
「…は?ちょ、おい待てってキャロ!」

 キャロは突然そう言うと俺に荷物を押し付け、一人先に到着ロビーへと走っていってしまった。
 俺は一人取り残され、呆然とキャロが走り去っていった方を見つめた。
 絶対にわざとだ…。
 到着ロビーまでは後少しだ、でも一人きりの俺にとっては途方もなく長い道のりに思えた。

「…はあ。」

 溜息とも深呼吸ともつかない息を吐き出すと、俺は二つの荷物を引きずりロビーへと向かった。
 暫くして前方に見慣れた人物が視界に入ってきた。
 キャロと両親だ。
 母親はあんなに細かっただろうか…でもとても元気そうでよかった。
 キャロと母親が抱き合う様子を見守る父親は、以前よりも痩せて彫りが深くなったのか更に厳つくなった印象を受けた。

「…。」

 あと少しという所で足がすくんで動かなくなる。
 再会を喜ぶキャロ達を見ていると、まるで蚊帳の外に追いやられたような気持ちになった。
 いや…それは俺の逃げたいと思う弱い気持ちの現れだ。
 いつだって俺はそうやって卑屈になって、家族からも友人からも距離を置こうとしていたんだ。
 一歩足を進めた。
 そしてまた足がすくむ。

「…!」

 その時、俺の回りには誰もいない筈なのに強く背中を押されたような気がした。
― 早く行ってやれよ。リュウの事、皆待ってる…。
 そういって笑うヒューの声が胸の内に響いた。

「そうだよな…本当、随分待たせちまった。」

 俺は苦笑を漏らすと、再びロビーへと向けて足を進めた。
 こちらに気がついたキャロが両親の手を引き、俺の方を指差した。
 母親は両手を口にあて、あまりの驚きに固まってしまっていた。
 滅多に感情を表に出さない父親も幾分か驚いた様子を見せていた。
 すぐ傍まで歩み寄り、一度俯いて、そして顔をあげて家族の顔を見つめる。

「…ただいま。」

数年間、ずっといえなかった言葉を俺はようやく口にした。


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