あの時に殺しておくべきだったのか、殺さなくてよかったのか…。
ただ一ついえるのは、結局は現状でよかったと思う自分がいること。
その甘えで命が脅かされる事になっても、それはそれでまあいいのかもしれない。


 目撃者はすべて抹消せねばならない。
 それに例外はない。
 たとえソレが偶然通りかかってしまった一般人だとしても…。

 同じ裏世界の者やターゲットはその場でただ抹消すればいい。
 やっかいな死体処理や後始末はお互いが処理しあうように上手くシステムが出来ている。

 しかし偶然遭遇した一般人はそうもいかない。

 不自然な死や失踪は世間の注目を否応がなしに浴びてしまう。
 故にその場で口止めをした後に一度解放し、目撃者の身辺を入念に調べ、その後もっとも自然な形の死を与える。
 それが掃除屋達の一般人の目撃者に対する処理だ。
 身辺を調べている間にたとえ目撃者が警察に通報しようともムダだ。
 警察内部にも同じ裏世界に住む人間が紛れ、根回しをしているからだ。

 この世界は“掃除屋”にとってとてもよくできている。
 この世界はそれだけ“掃除屋”を必要としているのだろう…。

 だがKKは浮かない顔をしていた。
 あの現場を目撃した一般人…それがよく見知った整備士だったからだ。

「…ったく。折角腕のいい整備士、兼何でも修理屋を見つけたっていうのにな。」
「本当に厄介なヤツに見られたもんだな。外国人じゃ身辺調査するのにもかなり時間がかかるぞ。」

 立派な白ヒゲをもふもふ動かしてGが文句を言う。
 にらみつける視線から逃れるためにKKは目深に帽子を被りなおした。

「確かそのボウズ、アイルランド出身だったな?丁度兄弟がアイルランドの整備場にいるし、そのあたりから情報が入手できないか聞いてみるか。」
「Gのおやっさん、何人兄弟いるんだ?」
「企業秘密じゃ。」

 にやりと笑うGにKKはハイハイとテキトウに相槌をうつ。
 多分アルファベットの数くらいいるのだろう。

「まあでも整備士なら工場での事故死にすれば自然だろう。一応身辺調査は依頼するが…まあ早めに処理しちまってくれ。顔見知りだし警戒されることもないし簡単にやれるだろ?」
「…早めか…。」
「なんだ、早いと困る事でもあるのか?」

 KKの思い悩んだような返答が意外だったのか、Gは片眉を器用にあげて疑問を投げかけた。

「さすがに現段階じゃ警戒される…ちっと時間置いて安心させてからやらねえとな。抵抗されたら厄介そうな相手なんだ。」
「…強いのか?一般人なのに?」
「恐らく、俺でも苦戦する。」

 Gは大げさに肩をすくめると盛大にため息をついた。

「ったく、ヘンなヤツに目撃されたもんだなお前も。」
「とりあえず暫く時間を置いて、頃合を見計らってからやるわ。」

 言葉を区切った後、KKは軽く舌打ちをした。
 それは上手く事が運ばない事に対してしたものではない。
 すぐに青年を殺さなくていいという事実に対して少しでも安堵した、そんな自分の甘い気持ちに対してのものだった。



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