「昨日は突然でてっちゃったから、コーヒー二人分飲むの大変だったんですよ。今日はちゃんと飲んでいってくださいね。」
KKに抗議の言葉を口にしながらテーブルにコーヒーを並べるとソファへと腰掛ける。
その詫びにと差し出されたシガーケースからヒューは煙草を一本とると口にくわえ火をつけた。
ヒューには少しきつかったのか、紫煙を吐き出した後「ちょっとキツいですね。」とKKに苦笑を向けた。
「お前さ…どうして警察に俺の事、言わなかった?」
あまりに唐突なKKの質問にヒューは一瞬目を見開き、そして微笑んで答えた。
「それはもちろん、KKさんの事が好きだからですよ。」
聞いている方が小恥ずかしくなるような事を至極当たり前のように答えたヒューに対して、KKは不愉快そうに眉根をひそめた。
「お前な…俺が聞いているのはそうゆう事じゃねえよ。」
満足した回答が得られなかったのか、KKはヒューにむけてわざと煙った息を吐きかけた。
そして苛立ちを隠すことなく、口に咥えていた煙草を乱暴に灰皿へと押し付ける。
KKの不機嫌そうな様子に、ヒューは理由が思い当たらず困惑して頭をかいた。
「うーん、本当の事を言ったんだけどな…。そりゃまあ、確かに他にも理由がありますけど。」
「だから、俺はその他っていうのを聞きてえっつってんだ。」
渋そうな表情をはりつけたままのKKにヒューは苦笑を浮かべると、そのままうつむいた。
「KKさんは…。」
「ん?」
ヒューは言葉を区切ると押し黙り、煙草からのぼる煙を目を細めてみつめた。
そして覚悟を決め、真剣なまなざしでKKを正面から見据えると一つ疑問を投げかけた。
「KKさんは、どんな人を“掃除”してるんですか?」
「ん〜?…そりゃ掃除屋の名の通り、世の中の為にならないゴミを掃除してんのさ。」
予想どおりの返答だったのか、ヒューは小さく二度頷いた。
「だからですよ。」
「あ?世の中の為にならない人間を始末してるから黙ってるってのか?とんだお人よしさんだな。」
KKの言葉にヒューは今度は首を横に振る。
灰皿に短くなった煙草を押し付け、煙交じりのため息を吐いた。
「KKさんに仕事を依頼している人の中に、警察の上層部の人間…もしくはそうゆう所に顔が利く人がいるんじゃないんですか?」
「…。」
予想もしていなかったヒューの言葉に今度はKKが押し黙る番だった。
「警察が手を出せないような相手を処分するには、KKさんのような掃除屋を利用するのが便利だろうし、KKさんにとっても警察と協力関係になるのは悪い話じゃないでしょう。だったら警察に言っても無意味…いや、言う事によって逆に俺の方が処分されるかもしれない。なら黙ってる方が賢明だ。」
「驚いたな…俺はお前の事、単なるお人よしのバカだと思ってた。」
KKの言葉にヒューが少し表情を緩めた。
どうやら“お人よしのバカ”という言葉を褒め言葉だと勘違いしたようだ。
ヒューは照れ隠しに頭をかいたあと、ぽつりを言葉を漏らした。
「まあ、警察が嫌いっていうのもありますけどね…。」
「キライ?お前父親が警察官なのに、警察が嫌いなのか?さっきの洞察力はさすが副長官ゆずりの才能だと思ったんだけどなぁ。」
少し緩めた表情を一瞬で驚きへと変え、ヒューはソファから僅かに体を浮かせた。
「ど、どうしてそれを知ってるんですか!?親方以外誰も知らないはずなのに…!」
「調べさせてもらった。お前の身辺の事、いろいろとな。」
調べた、という言葉にヒューは一気に警戒心をあらわにする。
その様子をモヘ楽しむかのように不敵な笑みをたたえて見やった。
「何で俺の事を調べたりしたんですか…?」
「目撃者であるお前を自然な形で殺すためだ。」
ガタっという音を立ててソファから落ちそうになったヒューにKKは軽く手を振った。
「安心しろ、殺さねぇよ。っつーか殺せねぇ。」
「殺せない……?」
「限りなく正解に近い理由、お前さっき自分で言ったぞ?」
「…?」
疑問だらけで混乱しはじめたヒューの肩に手を置くと、KKはにやりと笑みを浮かべた。
「じゃ、順々に説明してってやる。俺が所属してる掃除屋のグループってのは各国にあってな。一つ一つは小さいが、まとまると結構デカイ組織なんだ。その組織の上層部の連中ってのはお偉いさんが多くてなあ…。たとえば一国の政治家だったり、お偉い警察官だったり…。」
「まさか…。」
もう答えは言っているようなものだ。
だが追い討ちをかけるかのようにKKはヒューへと言葉をかけた。
「おまえの親父さんは俺の組織の上層部の一員だ。お前、さっき自分で言ったよな?ウチの組織に仕事を依頼する人間の中に、警察の上層部がいるんじゃないかって。…惜しかったな、警察上層部そのものがウチの組織の一員だってワケだ。」
「…そんな、それが、親父だっていうんですか…!?そんな、…ウソだ!」
「ウソなんかじゃねえぜ。ついでにもう一個いい事を教えてやる。」
そのいい事がろくでもない事だと分かっているのか、ヒューの表情は真っ青で凍りついたままだ。
もう聞きたくないという様子のヒューにKKは容赦なく言葉を浴びせる。
「お前の親父さんのすぐ下についてる幹部に化物じみた奴がいてな…いろいろ成果を出してるんだが、一番すげえのがウチの組織と対立してるマフィアの末端グループ数十人を一夜にしてたった一人で壊滅しちまったっていうのだな。しかも当時まだハタチっていう若さでだ。」
「……。」
返答はないが、KKの言葉の意味をヒューは瞬時に理解したようだ。
見開いた目はKKを見ているのか、それとも何も見ていないのか…衝撃のあまり虚ろになってしまっている。
何もいわないヒューに代わってKKが苛立たしげに言葉を投げかけた。
「そうだ、幹部ってのはお前の事だ。…いいか、むかつくけど立場上お前は俺の上司なんだ。それが殺せない理由だ、分かったか。」
「…どうして、…そんな、何で俺が!そんな組織の幹部に勝手に…アレだって、俺はただ妹を守ろうとしただけで…組織とか、そんなの関係ないのに何で…!何で親父はそんな事…!」
ヒューの口調は虚ろげなものから、後半は半泣きの怒声へと変わっていた。
やり場のない激情をぶつけてくる取り乱したヒューをKKは静かに一喝した。
「お前を守るためだろう。」
そのたった一言に、ヒューは凍りついたかのように全身を強張らせた。
「事実、そのおかげでお前は命拾いしたじゃねえか。親父さんはトラブルを呼び込むお前を守るために手段を選ばなかっただけだ。…大切な人間を亡くしてるお前になら、その気持ち、ちったぁ分かるだろ。」
「………。」
茫然自失というのは目の前の青年の事をいうのだろう。
この青年の情けない姿をKKは今までに何度か見ているが、ここまで哀れな姿は初めてだった。
複雑な想いに挟まれ、揺れ動いているのだろう…少し突けば崩れ去ってしまいそうなほど、儚げな表情を浮かべている。
「というわけで、ま、これからもよろしくな。」
「……。」
「今日のところは帰るわ、ゆっくり寝て明日からまたがんばれ。」
何も言い返さない青年の肩を元気付けるようにポンポンと軽く叩くとKKは出口へを足を運ぶ。
が、ふと何か思い出したかのように振り返ると、再びKKはヒューの元へと歩み寄った。
「あー忘れてた!お前が一般人だって言い張ってても、そうもいかない事もでてくる。それでだな、明日からこの俺が直々に護身術を教えてやる。」
「……はぁッ!?」
KKの言葉に呆然としていた青年が勢いよく体を起こした。
無理もない、今目の前にいるヒゲのバケモノに護身術なんぞ叩き込まれようものなら、護身術を身につける前に死にいたる可能性が高い。
「簡単に上司に死なれても困るんでな。明日から仕事後、みっちり鍛えてやるぜ。覚悟しとけ。」
「ちょ、勘弁してくださいよ…!KKさんに鍛えられたりしたら、それこそ死んじゃいますよ!」
文字通り、目をぐるぐる回す哀れな青年にKKはとどめの言葉を投げた。
「安心しろ、ギリギリ死なないように殺さないようにイ〜カンジに鍛えてやるからよ?楽しみにしとけ。」
そういってKKは満面の笑みを浮かべた。
今日も飲んでもらえそうに無いテーブルの上の二つのコーヒーは、ヒューの表情と同じように静かに冷めていった。
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というわけで、KK&ヒューその3 (超長) でした!
どうして殺しの現場を目撃したヒューをKKは処分しなかったのか。とか
どうゆう経緯でヒューがKKに護身術もとい暗殺術を叩き込まれたのか等
いろいろ説明不足だった部分を補ってみました。無理やり(爆)
KKの葛藤をもっと上手く書けたらよかったんですがボキャブラリが追いつきませんでしたよ!
どうしても兄さんの父親の存在とかを出さないといけなかったので
webマンガ(BONCA 1590)の方で幼少の頃の設定をだしてからUPしてみました。
この小話自体は結構前に骨組みはできていました(笑)
補足ですが、本文中でヒューが警察が嫌いだといっているのは
妹を守るために過剰防衛した自分はちゃんと罰せられないといけないと思っていたのに父親が権力で事実をもみ消したからで、
本来なら正しくあるべき場所が正しくない、その事実がキライだという意味です。
警察官個々の存在はキライではなく、警察という組織全体がキライだという意味なんですがそこまで書けませんでしたー!
ちなみに妹を守るうんぬんのくだりはmissing link(19P)で2P兄さんに1P兄さんが言っていた部分です。
そして護身術うんぬんはmissing link(38P)部分で2PKKに1P兄さんが言っている部分です。
webマンガとmissing link、全部読んでないとちょっと話が把握できないかもしれません、スミマセン。
結局のところ、ヒュー兄さんは単なるオバカではなくて
そうゆう汚い部分とかちゃんと理解出来てるっていうのを書きたかったのです。
まあ、全部私の妄想なわけですが(笑)
07/02/07